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楽しい歯のお話「歯話」

〔第1話〕 お口の健康にお歯黒!

日本には「黒の化粧文化」ともいえる時代がありました。 その代表的な例が、歯を黒く染めるお歯黒です。
お歯黒は、平安時代に女性が成人した印としてはじまったとされています。明治のころまで約一千年もの間つづき、女性だけでなく男性もお歯黒をした時代がありました。今から見れば美意識の判断としては争いのあるお歯黒も、歯の健康にとってはたいへんよかったようです。というのも、お歯黒をつける前に歯の汚れ、つまり歯垢をとらなければなりません。そのため、自然に虫歯の予防効果がありました。
また、お歯黒の成分であるタンニンは歯質タンパクを収れんさせて腐敗を防止します。事実、昭和51年当時、お歯黒を日常的にしていた最後の人といわれた96歳になる秋田県のご婦人には虫歯がほとんどなく、50歳代の歯齢であったと伝えられています。

〔第2話〕 ギシギシ、ガリガリ、カチカチ。これ何の音?

せんべいは10キロ、フランスパンは30キロ、そして歯ぎしりが60キロから80キロ。これ、ものを噛むため歯にかかる重力です。
歯ぎしりにはこれだけ強い力がかかっているのですから、歯が欠けたり折れたりしても不思議でありません。また歯がぐらぐらしたり、アゴがはずれたりすることもあるそうで、歯ぎしりを軽視しているとたいへんなしっぺ返しをくらうことになります。
ところで、歯ぎしりには三つの「型」があるそうです。歯をすりあわせるギシギシ型、食いしばるガリガリ型、そしてカチカチ鳴らすカチカチ型。
ギシギシ型は虫歯のつめものが合わないことが主な原因、ガリガリ型はストレス、カチカチ型はその二つの原因が重なって発生するそうです。
それぞれの型をもった人が3人集まれば、歯ぎしりによる真夜中の大演奏会ができるかもしれませんね。

〔第3話〕 古代から受け継がれる歯みがきの大切さ

古今東西、歯にまつわる言い伝えや記述はいろいろな形で残されています。
例えば古代エジプトのパピルスにはすでに歯みがきの処方について記述がありました。インドでもあのお釈迦様が「朝はやく起き、虫食いのない木を使って歯をみがきなさい」と啓蒙していた痕跡があります。
当時の仏典にこのような記述があることからお釈迦様の言葉として伝えられてきたといいます。
ところで、「歯をみがく」という考え方は仏教の伝来とともに日本に輸入されたそうです。6世紀の中頃に輸入された仏教がやがて平安朝のころになると加治祈祷の儀式で人心を得た密教にも発展、その儀式のなかに楊枝の儀式というものがあって、それが民間への歯みがき奨励に大きな役割を果たしたと伝えられています。
このように、歯みがきは時代を超え、民族を超えてその大切さが伝えられてきたようです。

〔第4話〕 化石になっても歯は語る

化石となった歯を調べることで、いろいろな事実を知ることができます。
例えば草食性であったか、肉食性であったかというような基本的なことは比較的簡単にわかるそうです。
歯の磨耗状態をチェックすることで、鳥の祖先といわれている始祖鳥が昆虫や海岸に打ち上げられた動物の遺骸を食物にしていたことも推定されています。肉食性の恐竜が歯ぎしりをしていたことも、歯の減り具合で判明しているそうです。狂暴な肉食性恐竜ティラノサウルスはその極端に小さな前肢で歯の掃除をしていたこともわかっています。
もちろん化石で残された歯の状態から生活様式や生態の観察ができるのは人間の場合でも同じ。古代エジプト人のミイラの歯が極端に磨耗していることから、その原因は彼等が日常食べていたパンに砂の粒が多く含まれていたことが明らかになりました。

〔第5話〕 あこがれの塩歯みがき

古代ローマ帝国の貴族たちは、つまようじで歯の掃除をしていたと記録されています。また、バラを粉末にした歯みがきや、鹿の角、ハツカネズミの頭骨からとれる灰、馬のひずめをつかった薬などで歯のケアをしていたようです。
このようにお口の衛生に関心が高かったのは、糖尿病からくる歯周炎に苦しんでいた貴族が多かったため。おそらく、運動不足のうえに、毎日ぜいたくな食事をしていたからでしょう。
同じ貴族でも皇帝や皇后など皇室のトップクラスは塩を歯みがき剤として使っていました。なにしろ、当時は塩一握り毛皮一枚といわれたほど高価で貴重な物質でしたから。初代ローマ帝国皇帝オクタヴィアヌスのお姉さんが愛用していた塩ハミガキ剤の処方が今も残っています。
古代ローマ人にとって、塩はみがきはあこがれのデンタル・ケアだったのでしょう。

〔第6話〕 おいしいお酒は、乙女のお口から

虫歯予防の第一歩はよく噛んでものを食べること。
唾液は噛むことにより分泌される消化液で、虫歯のもとになる酸を中和させてくれます。
よく噛むといえば、太古日本ではひたすら噛むことでお酒をつくっていました。ごはんやパンをしばらく噛んでいると甘いかおりが口中にひろがってきますね。これは唾液中の糖化酵素の働きによりデンプンがブドウ糖となって甘くなる現象です。
このブドウ糖を古代の日本人はお酒づくりに活用しました。穀物をかみくだき、甘くなってから容器の中に吐き溜めます。すると空気中に浮遊している野生の酵母がそこに付着し、やがてアルコールの発酵を引き起こす仕組み。
穀物を噛むのは汚れを知らぬ乙女たちの専業と伝えられてきました。
清らかさあふれる乙女たちは、昔から清潔なお口の健康を象徴する存在だったのでしょう。

〔第7話〕 Health begins with your teeth. - 健康は歯から -

有名なハムラビ法典の言葉に「目には目を、歯には歯を」があります。 これを英語では“An eye for an eye,a tooth for a tooth.”といいます。
他にも英語で歯にまつわるおもしろい表現がいろいろありますのでいくつかあげてみましょう。
“Tooth and nail”、直訳すれば「歯と爪」ですが、これで「力一杯」という意味になります。日本語にも「歯をくいしばる」という言い方がありますが、爪を立て、歯を噛みしめることは洋の東西を問わず、体に力をみなぎらせること。
“Pull teeth”を直訳すると「歯を引き抜く」ですが、これは「武器を奪う」、つまり「骨抜きにしてしまう」という意味に転じます。
では、歯がなくなったら?“Toothless”「歯がない」、つまり「非力」。 そうならないためには“To the teeth”、直訳すれば「歯に至るまで」、つまり「完璧に」。
お口の健康は完璧に。

〔第8話〕 モーツァルトで、歯痛にサヨナラ。

歯科医院の待合室や治療室に流れる心地よい音楽は、気分を落ち着かせ、痛みを和らげる役割も果たしています。
1550年頃、ボストンの歯科医師ウォレス・J・ガードナー博士が、治療中に音楽を聴かせたところ、歯の痛みが和らぎ、麻酔さえ必要なく、抜歯もスムーズに行われたと報告しています。
また、フランスのトマティス博士は、モーツァルトを聴くと心が穏やかになり、病気さえ回復に向かうことを実証しました。
彼の音楽は、非常にシンプルで親しみやすいうえ、深く神秘的だからだそうです。晩年のモーツァルトは、歯痛に悩まされていたとか。
痛みを和らげる音楽を生み出したモーツァルト自身が、歯の痛みに苦しめられていたとは皮肉なものですね。

〔第9話〕 ハハハじゃすまない、歯の失敗

トム・ハンクス演じる宅配業者のエリート社員が、飛行機事故で無人島に漂着する映画「キャスト・アウェイ」。 その無人島で彼は、歯痛に耐え切れず、漂着荷物のスケート靴で抜歯するという、見ている人まで痛くなりそうなシーンが登場します。
また、マコーレー・カルキンが一躍大スターとなった「ホームアローン」。家に一人残された少年に、泥棒が善人を装って笑顔を見せますが、金属の歯のせいで、のちに正体を見破られてしまいます。
これらハリウッド映画からも、歯で痛い思いをする前に予防を、というメッセージが伝わってきませんか。
むし歯になって悔やんでも、あとの祭りですよ。

〔第10話〕 歯が抜けて あなた頼むも あもあみだ

「痩蛙(やせがえる) 負けるな一茶 是(ここ)に有(あり)」。 江戸時代後期に活躍した俳人、小林一茶の有名な句です。やさしさとユーモアに満ちた句を生涯2万句も詠んだ一茶は、50歳を前にすべての歯を失ってしまったとか。
「歯ぎしみの 拍子ともなり きりぎりす」。
これは、歯がまだ健在だった頃の句にちがいありません。そして月日が過ぎ、最後の一本の歯が抜けてしまうと、自らの気持ちをこんな句に託しています。
「歯が抜けて あなた頼むも あもあみだ」。
歯をすべて失ってようやく、噛むことの大切さを悟ったのか、あとは阿弥陀仏の慈悲にすがるしかないと、さすがの一茶も心細くなったのでしょうか。

〔第11話〕 歯をみがくと、悪魔になる!?

小説「将軍」の作者、ジェームス・クラベルが書いた「TAI−PAN」に、興味深い一節があります。
舞台は19世紀後半の中国。ライバルの欧州人からも、地元の中国人からも畏敬されていた、スコットランドの貿易王ストルアンには、奇行がありました。
それは、歯みがきだったのです。お茶に歯ブラシをつけ、歯みがきに励む彼に、周囲は「歯は老化し、やがて抜けるもの」と、その愚行をいさめました。
ところが、50歳をこえても彼の歯は健康そのもの。逆に、愚行をいさめた人々の歯はボロボロに。くやしまぎれからか、人々は彼を悪魔の仲間よばわりにしたとか。
もし、当時の人が現代にタイムスリップすると、世の中「悪魔」だらけに映るでしょうね。

〔第12話〕 「卑弥呼の歯がいーぜ」

女王卑弥呼の生きた時代の人々は、一食あたり3990回食べ物を噛んでいたとか。現代人の平均620回と比べると、なんと6倍以上です。
噛む回数が少ないと、歯並びが悪くなり、虫歯や歯周病の原因にもなります。忙しい現代人は、ファストフードなどで急いで食事を済ませ、噛まなくなっている傾向にあるのです。
そこで1990年、噛むことの大切さを考えるために発足した「日本そしゃく咀嚼学会」では、「卑弥呼の歯がい−ぜ」という標語を紹介しています*。
よく噛んで食べることは、健康の源。もちろん、歯みがきも忘れずにね。
*上記イラスト参照。

〔第13話〕 抜けた歯はどうするの?

抜けた乳歯をどうするか。 国ごとにさまざまな言い伝えや習慣があります。
日本を含めアジアでは、上の歯は縁の下に、下の歯は屋根へ放り投げるという習慣があります。新しい歯は、古い歯がある方向に伸びると信じられているからです。
一方、米国、カナダ、イギリスなどでは夜眠る時、枕の下に抜けた歯を入れておくと、“歯の妖精”がやってきて、抜けた歯を持っていき、コインと交換してくれるという言い伝えがあるとか。
チリとコスタリカは、かなりユニーク。抜けた歯をイヤリングにして身につけておくそうですよ。
国がちがっても、歯の健康を願う気持ちは世界共通なんでしょうね。

おわりに

この小冊子は、日歯広報の広告欄に掲載された「歯ごたえのある話」より
特に興味深く、参考になるエッセイ&イラストをダイジェストして
一冊にまとめたものです。お役にたてれば幸いです。

デザイン こが まゆみ ・ おかべ えみ
イラスト こぐれ まさこ ・ たけうち なおこ
ライター よしみ まさかず ・ にしの ゆきこ ・ ふなだ るみこ
エディトリアル まきた なおこ ・ ほりぐち なほ ・ いとう あいこ
監修 日本歯科医師会
編集 T.Y.A.Inc
参考文献 〔第1話〕
アーネスト・サトウ著「一外交官の見た明治維新」
〔第2話〕
竹内均著「頭にやさしい雑学読本2」(三笠書房)
〔第3話〕
長谷川正康著「かむ−歯は生命−」
〔第5話〕
長谷川正康著:「かむ−歯は生命−」
〔第6話〕
河出書房新社刊「人はこうして美味の食を手に入れた」
〔第8話〕
「モーツァルトで癒す」日本文芸社
〔第9話〕
http://www.had.or.jp/okutikenkou/happy13/hat.htm
〔第10話〕
宗左近「小林一茶」集英社、長谷川正康「噛む歯は生命」求龍堂
〔第12話〕
山本隆「美味の構造」講談社メチエ219
〔第13話〕
「はがぬけたらどうするの?」フレーベル館

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