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高齢者社会におけるヘルスプロモーション戦略

GROBAL REVIEW ON ORAL HEALTH IN AGINGSCIETIES

WHO Kobe Center for Health development Ageing and Health Technical Report Volume 3 21-37
Chapter 2 Health promotion and disease prevention in aging societies

1.イントロダクション

高齢者人口が増大した社会ではそれに応じた高齢者向けのヘルスプロモーションが必要となります。特にオーラルヘルスプロモーションは個人個人の生活の質(QOL)を保つための重要な要素になります。QOLとは身体に痛みがなく、身体的、精神的、社会的に健康な機能を有することを意味します。

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2.ヘルスプロモーション、健康教育、疾病予防の定義

ヘルスプロモーションのルーツは19世紀の公衆衛生と深いつながりがあります。この時期は飲料水が安全になったことや住居環境が改善されたことから、いわゆる疫病が大きく変化した時期でした。そして1984年にWHOはヘルスプロモーションの概念と原理を提案しました。それは個人や社会が健康をコントロールしその結果として健康を増進することです。

1986年にはオタワ会議でヘルスプロモーションの5つの原理が提唱されました。

1)ヘルスパブリックポリシーを構築すること,2)サポート体制を構築すること,3)地域社会の活動を強化すること,4)個人のスキル技能を向上すること,5)ヘルスサービスに新しい方向を与えること、そして、ヘルスプロモーションに地域社会の参加はなくてはならないものであり、疾患荷対するリスクの高い人のみをターゲットにするのではなく、日常生活の流れのなかで人々とともに取り組んで行くことが重要であるとしています。

ヘルスプロモーションにおいて健康をそれぞれの地域社会において定義することが重要です。ヘルスプロモーションには社会経済的な背景や個人の健康に関連する行動要素が含まれます(図1) 。つまり、ヘルスプロモーションはそれぞれの人々の文化、社会、心理、さらに生物学などの各水準に立脚して実施されるものなのです。
ヘルプロモーションは個人や集団の健康教育に重点を置いていており、オーラルヘルスプロモーションに必要なものですが、それだけでは充分ではありません。

健康教育は個人や地域社会が健康を維持し、増進するための知識、態度、技術を身につけるために行われるものですが、その一方で環境が個人や個人、グループ、機関に影響します。そのため、個人は行動を環境に適用させる必要があり、また環境を行動しやすいように適用させてゆく必要があります。

臨床モデルではヘルスプロモーションは疾患の予防を強調し、疾患の予防や進行を中心にしています。

オーラルヘルスプロモーションには一般的なヘルスケアーシステムにおいて口腔保健を支持しまた維持してゆくための高い水準のオーラルヘルスケアーの開発が含まれています。


ヘルスプロモーション実践のためのモデル

ヘルスプロモーションを成功に導くためには計画、実施、評価に対していくつかの過程が必要となります。Greenによるモデルでは第一段階はPRECEDEと呼ばれる診断も過程です (図2) 。

地域社会、実施、または患者の各立場から、QOLに関する一般的な問題を考えます。
1で明らかにした一般的な問題と共存している、もしくはそれに影響されたり影響を及ぼしている
健康に関する特別な問題を明らかにします。
個人、実施、地域社会それぞれの立場で健康に関する問題と関連している健康に関連した
行動を明らかにします。
どの点に介入したら最も効果的かを考えるために健康に関連した因子を素因、実現、強化の因子に分類します。
4のカテゴリーを評価し、各因子の相対的な重要度、資源、最も効果的な介入を明らかにします。
計画が完成し、充分な情報が収集されたら行動の段階に移ります。この過程はPROCEEDと呼ばれています。
診断に基づいた介入を構築し、実施します。
進行中の介入を評価しフィードバックします。

行政、状況、行動、疫学・社会の各因子を何のために、どのように、誰のために、いつ行うかを分析し評価します。Barmsはオーラルヘルスプロモーションの立場から以下のように述べています。高齢者に対する公益的な介入は、いかに完全で機能的な歯列の維持を向上し、必要で高齢者が受け入れられ供給可能なサービスをいかに提供するかに焦点をあてることが必要で、特に減少する資源のなかで増大するコストを考慮する必要があるとしています。

収集された情報に基づく計画によって個人、システムに立脚したヘルスプロモーションの戦略を成功に導きます。このような情報収集の過程を経なければ、臨床的に正しい介入方法でもそれを不適切な集団に適用してしまったり、システムとして不可能な地域にそれを適用していまいます。例えば、地域介入に対して水道水のフッ素化が重要であるとし、それを実施しようとしても、上水道化が行われていない地域ではそれは不可能です。フッ素入りの歯磨剤もそのような地域では高価な贅沢品として認識されているでしょうから、歯磨剤による介入も不可能です。フッ素入り歯磨剤に関してはWHOは、安価な価格で歯磨剤を提供するプログラムを立ち上げています。

一方で口腔保健に対する社会規範が存在し、財政や健康政策などのシステムの特徴の概念を考慮しなければなりません。水道水フッ素化などのヘルスプロモーションを実施する場合にはこのような問題を解決しなければならないことは通常です。最も奏効したヘルスプロモーション戦略はシステムや個人の認知の上に立脚し、適切な介入によって様々な問題を解決してゆきます。

高齢者の口腔保健を向上させるためには、様々な資源の活用を含めたコミュニティーモデルが必要となります。そのために必要な項目は以下のようになります。

地域の問題を確認すること
地域の資源を確認すること
地域の問題に対して地域特有の解決方法に対する計画や交渉を通じて地域と政府の連携を確立し活用すること
・ 予防歯科のプログラム
・ 歯科大学
・ 地域の保健所、保健センターなど
・ 個人に対する歯科医を含めたヘルスケアーの提供者
・ 歯科ケアーに対する外来患者
・ 病院、診療所
・ 地域センター
・ その他
ヘルスケアーワーカーに対するトレーニング
資源の選別的分配

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3.ヘルス全般へのオーラルヘルスの統合

多くの高齢者がリュウマチ、高血圧、聴覚障害、心疾患、整形外科的な問題を抱えています。このような状態が口腔の症状として現れることがあります。またこれらの疾患の治療のための服薬が口腔内の状態を悪化させていることがあります。特に降圧剤や鬱に対する薬が口腔乾燥症を引き起こし、齲蝕にかかりやすくなることが指摘されています。これらの慢性的な症状によって「高齢者が歯科治療に耐えられない状態になり、また日常生活活動を制限しています。慢性的な疾患をかかえる患者の中には移動が困難になり、手が不自由になり歯磨きができず、口腔衛生状態が悪化する場合があります。

歯科医療関係者は抜歯、う蝕、歯周病などによって治療が必要になった口腔よりむしろ健全で高い機能を有する歯牙を保存してゆくことにその存在意義があります。しかし、口腔保健や歯科サービスの利用状況は国や地域によって大きく異なります。世界的に見るとこれは大きく3つのパターンに分類できます。第一のパターンは高齢者数が少なく、そのほとんどが自分の歯牙を有しているパターンです。第二のパターンは、成人期にう蝕が増加して歯を失ってしまうパターンです。このパターンの国や地域の多くは、収入の多くが歯の治療よりもむしろ砂糖の消費に使われてしまっています。第3のパターン寿命の延伸とともには高齢者人口が増加して口腔保健や歯科サービスに対して多様な態度をとるものです。

高齢者が歯科よりも全身の健康を優先するのは珍しいことではありません。ヘルスプロモーションの一つの焦点は、一般的なヘルスケアーと口腔ケアの統合の重要性を高齢者や医療関係者に認識させることです。 表1 に医療関係者の数の推定値を示してあります。先進国でも発展途上国でも看護士や内科医の数と比較して歯科医師の数がかなり少ないことがわかります。多くの国で歯科医師は内科医の約1/5程度しかいないことがわかります。このようなことから医療関係者をオーラルヘルスプロモーションに取り入れることが、口腔保健を広めるのに効率がよいことがわかります。特に高齢者は内科医や看護士に健康に関する相談をするとが多いため、高齢者に対して口腔保健の普及には効率的です。

学校保健計画やプライマリーケアーで、全身の健康とオーラルヘルスを取り入れることあ一般的になってきています。特に歯周病や口腔ガンの危険因子である、タバコや飲酒に関する教育を取り入れています。歯周病や口腔ガンは若年者より高齢者に多いため、プライマリーケアー関係者が口腔保健に関する健康教育を高齢者に行うことは効率のよいアプローチです。

多くの高齢者が歯科医院を訪れるのはまれです。マレーシアでは86%の子供が年に一度定期検診に歯科医院を訪れます。しかし、高齢者を含めた成人で自分の歯牙を有する人はわずか6%しか歯科医院を訪れていません。このような状況では歯科医院からオーラルヘルスプロモーションを普及してゆくことは困難です。また、人口に対する歯科医師数が国単位では充分なところでも、高齢者や田舎に住んでいる人、また貧困な人が歯科医院を訪れるのは困難であるという状況があります。

結局、一般的なヘルスプロモーションと一緒になったオーラルヘルスプロモーションはほとんどありません。その結果、地域を主体としたプログラムのエビデンスはほとんどありません。タイでは政府の健康局が、60歳以上の高齢者の口腔保健を向上させるために、ヘルスケアーシステムによって、一般的なヘルスプロモーションとオーラルヘルスプロモーションを統合しています。人頭補助金が設立され、公的病院とボランティアの私立病院が部分床義歯、全部床義歯を含めた包括的な全身と口腔の健康を統合したヘルスサービスを提供しています。このプログラムの予防に関するサービスの提供によって、高額な医療やリハビリテーションのサービスの提供を最小限にできることを政府は期待しています。

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4.オーラルヘルスプロモーションの挑戦

地域や診療所が提供できるヘルスプロモーションのレベルはマンパワーに依存しています。費用対効果の高いヘルスプロモーションの計画には、目的をしっかり定め、個々の活動に適切な人材を配置する必要があります。発展途上国では、様々なニーズを把握し、問題を解決する方法を考え、綿密な計画が必要になります。適切なヘルスプロモーション計画には、オーラルヘルスに悪影響を与える因子を分析すること、患者、ヘルスサービス提供者、行政関係者が口腔疾患をどのように解釈し、対応するかを分析すること、さらにマスメデアなどオーラルヘルスに影響する環境を分析することが必要であるとしています。


4.1発展途上国におけるオーラルヘルスプロモーションの挑戦

先進国、発展途上国に関わらずすべての国でう蝕、歯周病、口腔ガンといった同じオーラルヘルスの問題を抱えています。しかし、需要、罹患率、資源、文化には相違があります。発展途上国においては、資源が少ないこと、潜在的なニーズが多く存在するといった特徴があります。ほとんどの発展途上国では、口腔ケアを提供できる人が少なく、提供するシステムも政府の健康局の直下にあります。このような国では開業医は都市に在住する裕福な人を診療し、政府が雇用した臨床医は各地域の2次、3次医療機関に配属され、それを政府の中枢部でコントロールしています。 表2 から、発展途上国では先進国と比較して多くの歯科医師が政府に雇用されていることがわかります。

歯周病治療の必要性というタイトル行われたシンポジウムで発展途上国では、資源と環境の特殊性から以下の問題が提示されました。

大多数の人々が田舎に散らばって住んでいること
経済的に貧しいこと
健康、特にオーラルヘルスに分配できる予算が非常に少ないこと
オーラルヘルスケアーに必要な機材が不充分なこと
人口の60%が低栄養状態であること
文盲、貧困、疾患の蔓延が永続的に続いていること
オーラルヘルスサービスを提供するにあたり労働力が不足していること
歯科医療関係者が地域的に偏って存在している。特に都市部に集中していること
オーラルヘルスに関連する人の報酬が安く、機材等の供給が不充分であり、
それらの理由から人の入れ替わりが激しいこと
以上のような理由から、オーラルヘルスサービスの提供が不可能な場合が多いこと
文化的背景と政策決定がオーラルヘルスプロモーションをサポートする体制にないこと
マスメデイアが提供するオーラルヘルスプロモーションのメッセージが非現実的であること
自分で行うプラークコントロールの方法がその地域の伝統を基にしたものであり、
歯ブラシや歯間清掃器具が高価な贅沢品として見なされていること
歯の喪失が老化現象としてやむ終えないことと認識されていること
寿命が短く、死亡率が高いこと
オーラルヘルスケアーに必要な機材が不充分なこと
喫煙ヤベテルナッツ(覚醒剤のようなもの)を噛む習慣のような
地域特有の習慣が口腔疾患の原因になっていること

以上の理由から、地域に対して計画を立てる歯科医の公衆衛生に対するトレーニングが不足していること、う蝕や歯周病の治療の供給が充分でないといった問題があります。そのためオーラルヘルスの提供が困難になっています。しかし、マレーシア、スリランカ、タイなどのアジアの発展途上国では、特に地方に対して強力なプライマリーヘルスケアーシステムを作っています。

1998年にWHOは、Integrated Package for Basic Oral Care(IPBOC)を提案しました。そのなかで4つの重要なことは、救急医療、フッ素の応用、口腔保健教育、非侵襲的な修復治療です。そしてそのゴールは現存するヘルスケアーの基盤を地域に根ざした予防方法の技術を適切なコストで提供することです。
緊急医療は現在の資源では最も困難なものです。前述のように口腔疾患を予防するシステムが不足していること、口腔ケアに対する資源が不足していること、歯科医師数が不足していることが痛みや感染症などの基本的な救急医療の大きな障害になっています。

フッ化物の応用は全ての年代の人々に有効な手段です。先進国ではフッ化物が小児を対象として応用されていますが、唾液腺機能が低下した高齢者でう蝕が多発する人にも有効であることが示されています。非侵襲的な修復治療は歯科医でなくても行うことができ高価な機材や電気などを必要としないものです。さらに歯科用接着剤やフッ素除放性のグラスアイオノマーセメントは口腔内でのフッ素の効果を高めるものです。非侵襲的な修復治療は西洋諸国でも、子供や寝たきり高齢者の根面う蝕に応用されています。

口腔保健教育はIPBOCのなかで重要な要素です。歯科や一般的な健康に対する知識を高めます。前述のように医療関係者と歯科医療関係者の連携が重要になります。

発展途上国では、地域の基盤、文化が異なるため小規模での計画が重要になります。国家規模でオーラルへスプロモーションを行う前に、小規模の計画で利便性、効果、継続性を評価する必要があります。適切なヘルスプロモーションプログラムのためには、若年者や成人でう蝕や喪失歯を持つ人の口腔保健を向上させることと,喪失歯を多数持つ高齢者の生活の質を向上させるという2つの考慮に入れる必要があります。IPBOCは歯科関係者を含めたプライマリーヘルスケアー従事者が基本的な口腔ケアを実施することとプライマリーヘルスケアーに口腔保健教育を統合させることを提案しています。少ない経済資源、不適切な地域基盤、などの困難な問題を克服してこれらは達成されるものです。


4.2先進国におけるオーラルヘルスプロモーションの挑戦

先進国においては、歯科医師数、歯科医療関係者の数が充分であり、教育機関も確立し、保険制度もあるため、オーラルヘルスはさらに進展させることが可能です。

先進国においては、口腔保健に不平等が存在し、その口腔保健は貧弱な人々を意識する必要があります。例えばイギリス政府は口腔保健の不平等を改善することを公約していますし、アメリカでは口腔保健に不平等に関する報告書を出しています。日本では歯科大学の学部長が従来の治療を主体とした教育から、予防、定期管理、ヘルスプロモーションを重要視した教育に見直しを行うと宣言しています。その目的は、情報技術の変化、人口が様々な地域に分散していること、高齢化社会になっていることを認識することです。しかし、現在のいところ、ヘルスプロモーションは大きなインパクトを与えていないようです。このように人材資源が充実した国でも自己点検が必要で、社会の変化がオーラルヘルスにどのように影響するかを認識することが重要になります。

日本で発行された総説では、歯科での管理をほとんど受けてない人に対する救急医療と現在歯数が少ない高齢者などを対象としたオーラルヘルスプロモーションをいかにその人々のニーズに合わせるかとうい2点が強調されています。また、咀嚼機能のQOLへの影響を研究している人もいます。そして、咀嚼機能は適切な日常活動、全身的な健康、心の健康に重要なため、歯科医師は高齢者が咀嚼機能を維持し、向上させるよう手助けするべきであることを強調しています。

国の目標をマスコミによって広めることの重要性の例として、日本の厚生労働省と日本歯科医師会による8020推進運動があります。この運動は、国民と歯科関係者に自分の歯を維持することと、高齢者が咀嚼機能を維持することの大切さを教育することにあります。

この運動によって地域の歯科医師会が多く計画を立て、全国的な調査が行われています。

オーストラリアで行われた2つの調査では、先進国でも地域のオーラルヘルスを提供する障害となる問題だけでなく、歯科関係者以外の人によるオーラルヘルスプロモーションの問題も明らかにしています。最初の研究は、クイーンズランドで、成人が公的なオーラルヘルスケアー通うパターンに関するものです。田舎に住んでいる高齢者は都市に住んでいる高齢者と比較して、公的なオーラルヘルスケアーに通う人が極端に少ないことが明らかにありました。また、地域として歯科医師数が充分な場所でも、公的なオーラルヘルスケアーに通う人が極端に少ないことも明らかにありました。

第二の研究は高齢者が地域の支援サービスの利用に関連する因子に関するものです。歩行や視覚に障害を持っていたり、リュウマチやガンに罹ったことのある80歳以上の高齢者はホームサービスを多く利用していました。このような事実から社会的弱者である高齢者と障害者に地域の支援サービスを通じてどのようにして、オーラルヘルスプロモーションを広めるかが問題となります。

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5.ヘルスプロモーションによる健康の維持

出生率の低下だけではなく、公衆衛生サービスの向上や医療技術の進歩による、平均寿命の延伸から人口構造が変化しています。先進国と一部の発展途上国で平均寿命が延伸していますが、高齢者にとって平均寿命の延伸は必ずしも生活の質の向上に結びついていません。健康な高齢生活を送るためには、高齢になる前から、準備と予防が必要です。

高齢者が健康な口腔を保つためには、費用がかかり、重荷になるような、歯科治療に依存しています。

健康とは、単に病気がなく病弱でないというだけではなく、身体的、精神的、社会的に良好な状態です。この概念に基づき、健康とは単に身体的な健康のみでなく生活の質を向上させることと言えます。それに関連する因子は、社会的に安全で、安全な家に住み、資源が充分にあり、人間関係に満足し、趣味があり、様々な活動をすること、そして前に進む気持ちをもつことです。このセクションでは以上の点をふまえてオーラルヘルスに関する見解を紹介します。

口腔疾患は生命を脅かすことはありませんが、食べること、笑顔、会話、表情に影響し、精神的な健康に悪影響を及ぼします。歯がないこと、歯周病、う蝕は全て高齢者にとって共通の疾患ですが、患者と医療関係者の態度、ケアの利用のしやすさ、歯科治療に対する考え方を反映しています。全ての口腔疾患はオーラルヘルスプロモーションによって予防可能で、治療よりもコストがかからず長期間にわたり効果的です。

高 齢者の口腔保健を向上させることは、オーラルヘルスケアーの提供者に新たな挑戦と責任を提供します。予防処置と定期管理の重要性を高齢者とケアの提供者に認知させるにgは多くの障害が存在することが多くの調査から明らかになっています。

この障害は大きく4つに分けることができます。疾患と健康に関連する因子、社会的な因子、サービスに関連した因子、態度と認知の因子です。オーラルヘルスプロモーションは健康教育、治療を含めた確固としたモデルに従い行うべきです。オーラルヘルスプロモーションで最も大切なことは、経済的、社会的な計画に従い口腔の健康を維持することに大切さを認識させることです。

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6.地域でのヘルスプロモーション

地域でのヘルスプロモーションは、予防に重点を置き、高価な病院での治療には重点を置きません。地域での口腔保健は、健康教育、スクリーニング、診断、処置を包括することです。地域でのヘルスプロモーションを成功させるためには、地域が進化してゆく必要があり、多くのヘルスプロモーションの提言者は地域の強化が成功には必須であるとしています。

ヘルスプロモーション計画は、生活様式を超えて個人をコントロールするという明白なゴールと間接的には人々を動かし、組織し、教育するという継続的な活動に支えられています。そして、オーラルヘルスプロモーションは、個人、家族、職場、社会の各段階で起こってゆきます。

従来のトップダウン方式では、地域を規則、登録、費用などでコントロールしようとしますが、ボトムアップの方式では、需要力や力量を増加させ、地域の資源を作り上げ、住民のなかからリーダーを育成してゆくことです。 図3 にその一例を示しました。

この方式では個人の行動を健康に結びつくような変化のための地域と社会の活動に焦点をあてています。地域でのヘルスプロモーションは、政策、地域活動、個人の技術向上、サービスと支援環境を再設定することに基礎をおいています。最も成功を修めているヘルスプロモーションは子供を対象としたもので学校を拠点にヘルスプロモーションが展開できます。このモデルを高齢者に当てはめると、その拠点は家庭、デイセンター、病院、診療所、ナースホームなどです。どこを拠点にしても、口腔衛生指導、栄養指導、適切なフッ素の使用、禁煙などのヘルスプロモーション活動を行います。さらに、病院などを拠点とした活動には、歯科、医科そして社会のサービス提供が含まれます。しかし、このモデルがアメリカで実施されたときにはサービスに歯科が含まれませんでした。しかし、このように環境が整備されている場合、最小限のコストでヘルスプロモーションがスタートできます。

地域でのヘルスプロモーションは常に政策を考慮にいれておく必要があります。またヘルスケアーシステムの変化も考慮する必要があります。特に個人が適切なケアを便利な場所で安価に受けられるような歯科医療サービスの供給です。

個人を強化すること、そこに住む人々に会うこと、他のヘルスの専門家たちと協力することなどの追求してこなかったため、歴史的には歯科のシステムは参加型ではありませんでした。歯科の専門家は将来の高齢化社会に向かって前述のような環境に適応してゆく必要があります。アジアの国の多くでは、高齢者は家族の心であると考えられています。治療に対する決断、特に高額な補綴治療などには、家族単位での意志決定が必要となります。そしてその家族が適切なヘルスプロモーションを診療所、病院、ナースホームで決断できるようにしてゆく必要があります。

地域での健康計画では、従来のオーラルヘルスケアーを受けられなかった人や集団にサービスを提供してゆく必要があります。地域で教育や研究など様々な努力が払われてきましたが、まだそれらを推奨するには充分なエビデンスがありません。最近、アメリカで地域住民を対象としたう蝕予防、口腔、咽頭ガンの予防、スポーツによる外傷の予防を目的とした介入で方法対する研究論文のシステマッテックレビューが行われました。その結果として、う蝕予防には水道水のフッ素化、学校を基盤としたシーラントが効果があることが明らかになりました。しかし、その一方で他の介入方法は未だにそのエビデンスが充分でないことも明らかになりました。また、地域を基盤としたシーラントや口腔ガンの早期発見は効果がないことも明らかになりました。このようなエビデンスが明らかになったにも関わらず、地域では未だにその地域特有の方法でヘルスプロモーションを展開しているようです。またその一方でこれらのエビデンスは必ずしも高齢者には当てはまりません。

地域に対して適切な機会に効率のよいヘルスプロモーションを展開することは複雑なプロセスです。これらの活動は主に小児や成人を対象としてきたため、高齢者の効果があるかはほとんどわかっていません。

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7.市場経済の影響

投資家の市場経済への影響力は先進国と発展途上国では大きな差があります。成熟した市場では、投資家は製品やサービス、価格決定、流通システムの確立、販売促進に対して大きな影響力があります。そして投資家は公的機関や大学、研究機関、医療提供者を含めた市場を操作します。一方、政府は地域の健康増進に必要なサービスや製品に対して税金を考慮することで市場に影響を与えます。私的機関や医療提供者は、政府に認められたサービスや製品によってオーラルヘルスを向上させるように働きかけてゆきます。

一方、発展途上国では、まだその基盤整備ができいていません。政府から支払われる給料が安いため歯科医師はヘルスサービスの仕事よりむしろ個人的に治療を行うようになる傾向があります。そして、高額な医療費を払える人のみを対象とした医療に専念してしまいます。

市場経済は科学に対しても影響を与えます。アメリカでは、歯磨剤生産者によってフッ素の適切な使用と歯磨きの大切さが市民に伝えられています。適切な市場戦略によって高齢者が自分の歯を保つことの大切さを認識するようになるでしょう。

タイでは投資家達の協力によって、禁煙運動が展開されています。喫煙と肺ガンの関連をテレビ広告で伝達しようとしましたが、コストのわりには効果がありませんでした。

しかし、ここ10年で成功に導くことができました。内科医に対して、タバコが生命を脅かすものであることを徹底して教育しました。マスメデイアも子供に焦点をあてた広告を展開しました。子供に父親が死なないようにまた、家族の家計ささえられるように健康を保つために禁煙することを子供が父親に勧めるようになったのです。

この活動によって2つの大きな法律が制定されました。その法律とは、Tabacco Products Controll ActとNon-Smoker Health Controll Actでこれらの法律によって、レストラン、劇場などで禁煙席の設置や、タバコの関する宣伝の規制が行われました。2001年にはタイではタバコに対して1%の増税がなされ、その収入はヘルスプロモーション活動に割り当てられました。このように税金による強力な経済支援が、政府および、非政府機関が禁煙運動に対して努力することが期待されました。オーラルヘルスプロモーションは、ミルクから砂糖を除く規制によって始められました。このように、オーラルヘルスプロモーションは、ヘルスプロモーションと平行して発展してゆきます。

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8.疾患の予防(新しい技術を提供する)

8.1非侵襲的修復治療

WHOは1994年に非侵襲的修復治療を効果的で実践的な技術として認めました。この方法は公衆衛生に対して、経済効果の高い方法で、世界中の人々が利用でき、高価な機材を使用しません。さらに、訓練を受けた歯科助手でも行うことができます。非侵襲的修復治療には以下の目的があります。

・ハンドインスツルメントで軟化象牙質を除去する。

窩洞をフッ素除放性のグラスアイオノマーセメントで充填しう蝕の進行を停止させる。

非侵襲的修復治療はミニマムインターベンションで健全な歯質を可能な限り保存します。鋭利なエキスカで軟化象牙質を除去しますが、この部分は細菌が進入し、タンパク質が変性している部分です。この部分は除去しても痛みはありませんし、麻酔も必要ありません。注射やドリルを嫌う人、特に高齢者にとっては患者にたいして優しい方法です。

非侵襲的修復治療で使用されるグラスアイオノマーセメントは液に対して粉の量を多くして使用することによって硬化が早くなり、初期硬化の際に水に対する抵抗性が増し、流動性が低下し充填しやすくなります。フッ素除放性も一つのキーポイントで、唾液やプラーク中にも放出されるためう蝕の予防につながります。高齢者に対して効果があるというしっかりとしたエビデンスはまだありませんが充分に有用な方法であると言えます。グラスアイオノマーセメントは象牙質やエナメル質に化学的に結合するため微少漏洩が起こりにくく、2次う蝕が起こりにくいとされています。また、生体親和性が高いため、口腔粘膜に為害作用が少なく、歯茎部の充填にも適しています。

歯科医師や訓練をした歯科助手には非侵襲的修復治療は簡単な術式です。スエーデンなどのいくつかの国では非侵襲的修復治療は予防処置として位置づけられ、歯科衛生士によって行われています。また、高価な機材も必要でなく、訪問診療でも行うことができ、高齢者には適しています。中国、ジンバブエなどのいくつかの国ではすでにフィールドでの試みが行われ、3年後の良好な結果が小児、成人に対して得られたとの報告もあります。


8.2化学療法剤

クロルヘキシジンなどの化学療法剤は先進国の個人歯科医院で使われています。プラークの量は減らしますが、歯牙に着色が起こります。地域レベルで使用して成功したというエビデンスはなく、結果として、現在はまだ地域レベルで使用する段階にはありません。


8.3フッ素

水道水のフッ素化はう蝕予防に最も効果のある方法として認識されてきました。多くの先進国でう蝕が減少した主な原因はフッ素によるものです。そして、歯科医療関係者や公的機関に携わる人達のう蝕は避けられない疾患で、最終的には歯牙を全て失うことは避けられないことであるという認識を変えました。また、フッ素の使用によって、多くの国でカリエスフリーの子供達を増やしてきました。将来、フッ素の使用によって、高齢者の口腔内も良好な状態になることが予想されています。

フッ素は萌出後の歯牙に効果があるため、成人では歯冠部のう蝕にも根面のう蝕にも効果があります。フッ素は歯牙を再石灰化するため、う蝕による脱灰に抵抗します。フッ素は様々な応用方法がりますが、最も効果的な方法は水道水のフッ素化と歯磨剤への添加です。

WHOは水道水のフッ素化を安全で経済効果が高く、だれもが利益を得る方法として指示しています。水道水中の適正なフッ素濃度は0.5-1ppmで、気温や飲む水の量によって変化します。フッ素によるう蝕抑制利率は22-69%とされ、う蝕罹患率が高いまたは中等度、う蝕が増加している地域には適した方法です。

多くの先進国で歯磨剤へのフッ素添加によるう蝕予防はここ2-30年間の戦略でした。家庭で使用する歯磨剤中のフッ素濃度は1500ppmで最も効果的とされています。しかし、6歳以下の小児に対しては歯牙フッ素症の予防のためより少ない濃度が推奨されています。

その他、フッ素の使用方法として、フッ素塗布やグラスアイオノマーセメント中にフッ素を添加する方法がありますが、これらは、水道水のフッ素化、歯磨剤へのフッ素添加に対する補助的な方法として位置づけられています。その使用は個人、家族、また地域のう蝕罹患の状況によります。服薬や放射線治療によって唾液が減少した高齢者はフッ素塗布やフッ素による洗口が必要になります。

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9.結論

健康な口腔と高い生活の質のためにはオーラルヘルスプロモーションは重要な位置を占めます。ヘルスプロモーションは健康教育や疾患予防など様々な要素があります。オタワ憲章で推奨されたように、地域レベルと個人レベルのヘルスプロモーションを統合してゆく必要があります。オーラルヘルスプロモーションに関与する人々は社会の全ての人に適切な疾患予防サービスの提供によって予防のたに努力するべきです。


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