8020 No.13 2014-1
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サイエンス
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3. マウスにおける血中
レプチン濃度と甘味
感受性との関連
そこで正常マウスを用い、レプチンを
腹腔内に投与することにより、どのよう
に血中レプチン濃度と味応答が変化する
のか調べました。
投与前のレプチン血中濃度は3.5 ng/
ml前後の値を示し、レプチン(100 ng/
g体重)を投与すると、30分後で6~
15 ng/mlまで上昇することがわかりま
した。この条件下で味神経の応答を記録
したところ、ショ糖やサッカリンなど甘
味物質に対する応答は、投与前を100%
とすると、いずれも投与10~30分後に
70 %にまで減少することがわかりまし
た。この甘味応答の抑制は、少なくとも
1時間以上持続し、徐々に回復しました。
他の塩味、苦味、酸味に対する応答には
変化は認められなかったことから、甘味
応答に選択的な抑制効果であることが明
らかとなりました
3)
。
次に飲水量を調べた結果、正常マウス
とレプチン欠損ob/obマウスでは、レプ
チン投与により甘味溶液の飲水量が減少
しました。一方、レプチン受容体欠損db/
dbマウスでは、このレプチン投与による
変化はみられませんでした
4)
。また単離し
た甘味細胞でも同様の結果がみられまし
た。
これらのことから、レプチンは甘味物質に対する応
答を選択的に抑制しており、この効果は味細胞に発現
するレプチン受容体Ob-Rbを介して生じているものと
推定されました。
体内エネルギーが過剰になると、脂肪がたまり、こ
の脂肪細胞からレプチンが分泌されます。レプチンは
脳の摂食中枢に作用して食欲をおさえるだけでなく、
味細胞にも作用して甘味を抑制することで嗜好性を下
げ、カロリー摂取量を抑えている可能性が推定されま
した(図3、図4)。
4. ヒト(非肥満者)における血中
レプチン濃度と甘味感受性との
関連
血中レプチン濃度には日内(24時間)変動がある
ことが知られており、ヒトでは朝に濃度が低く、食
事により上昇しはじめ夜中の12時頃に最大ピーク
となり、その後、朝まで減少するという変化がみら
れます。このことから、ヒトでもレプチンによる甘
味の抑制メカニズムがあるならば、甘味感受性が血
中レプチン濃度と連動して日内変動するのではない
図1 左:マウス第4染色体における甘味関連遺伝子の座位
右:db遺伝子
(Diabetesで糖尿病の略)
変異db/dbマウスとob遺
伝子
(Obeseで肥満の略)
変異ob/obマウス
図2 正常マウスとdb/db遺伝子変異マウスの鼓索神経
(舌前方2/3領域
の味覚を伝える味神経)
の応答
db/dbマウスは正常マウスに比べて甘味物質の応答が高い(甘いもの好き?)。