8020 No.13 2014-1
61
◆
サイエンス
◆
動をしても、それに同調した甘味
感受性の変化が起こらない可能性
が考えられました(實松ほか、未
発表データ)
。
私たちは朝、仕事開始前に最も
エネルギーを必要としますが、就
寝前にはそれほど必要としませ
ん。エネルギー源を探知する甘味
感受性が朝に最も高く、就寝前に
低いことは、理にかなったカロ
リー摂取を可能にしていると考え
られます。また食事を抜くなどの
偏食によるレプチンと甘味感受性
の日内周期の乱れは、カロリー摂
取に影響し、肥満につながる可能
性が予想されます。さらに肥満に
なってしまった場合はこの甘味感
受性の調節が働かないために糖尿
病などへ進行してしまう悪循環の
可能性が推測されました。
6.甘味受容体の発見とその新機能
甘味受容体に関しては、私たちが存在を推定して
いたマウス第4染色体に、T1R1 (Taste Receptor
Type1 member1、味覚受容体1型メンバー1の略),
T1R2, T1R3がT1Rファミリーとして2001年に
発見され(図1)、さらにT1R2とT1R3が二量体
をつくり甘味受容体として働いていることが明らか
にされました(図4)。
2007年には、大変面白いことに、この甘味受
容体T1R2/T1R3は舌の味細胞のみならず、消化
管の内分泌細胞(ホルモン分泌細胞)にも発現して
いることが明らかにされ、消化管内容物の甘味物質
に刺激されると、インクレチン*
注ト
を放出し、隣の
吸収上皮細胞でのナトリウム/グルコース共輸送体
(SGLT1) の発現を増加させ、腸管からのグルコー
ス吸収を促進させることが報告されました。腸でも
舌と同じように甘味を感じて、さらに糖の体内への
吸収を調節するという新たな機能が明らかにされま
した(図6-B)。
7. 腸におけるレプチンによる
甘味感受性の抑制
上述のヒト(非肥満者)におけるレプチンと甘味
感受性との相関解析の中で、“血糖値の日内変動”に
ついても解析を行いました(図6-A)。この結果、
興味深いことに、夕食後の血糖値の上昇率は、同じ
夕食のカロリー量であるにもかかわらず、朝昼夕の
3食摂取グループ、 昼夕2食摂取グループ、そして夕
1食摂取グループの順で高くなっており、夕食前の
血中レプチン濃度が低いほど血糖値の上昇率が高く
なるという関係が明らかになりました(図6-A:囲
みと夕食前後の血糖値の差)。
この血糖値の上昇率と血中レプチン濃度との関係
の原因として、腸でも甘味受容体が発現しているこ
とから、レプチンによる甘味抑制メカニズムが存在
している可能性が推定されました。そこで、マウス
の腸の培養細胞を用いて調べた結果、この細胞は甘
味物質に応答し、またレプチンにより抑制され、そ
の効果は10~20 ng/mlで頭打ちとなることが明
らかになり、腸でも甘味抑制メカニズムがあること
が明らかになってきました(上瀧ほか、未発表データ)。
この結果から、食事をとらないことで血中レプチン
図5 食事パターンによる血中レプチン濃度(A)、味覚認知閾値(B)の日内変
動への影響
味覚認知閾値は、その値が低いほど感受性が高いことを表す。例えば、ショ糖の感受
性は3食摂取の場合、朝高く(より甘く感じて)、夜低い(あまり甘いと感じない)。