8020 No.13 2014-1
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サイエンス
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濃度が低下すると、腸での甘味感受性が高くなり、
インクレチンの放出量が増大し、これにより吸収上
皮のSGLT1の発現が増加し、糖の吸収がより多く
なっている可能性が推測されました(図6-B)。
また、ダイエットのための食事回数の制限は、回
数を減らしてもそのリバウンドでグルコース吸収が
より増えるためあまり効果がないであろうことや、
カロリー0のダイエットコーラを飲んでも一緒に食
事をとっていれば、コーラの甘味刺激により、食事
に含まれる糖の吸収が増えるため、こちらもあまり
効果がないであろうことが予想されました。
8. レプチンと拮抗的に働く
内因性カンナビノイドによる
甘味感受性の増強
これまでの研究のきっかけであるdb/dbマウスの
甘味感受性の増大は(図2)、レプチンによる抑制効
果の欠如だけでは完全に説明できないことから、レ
プチンとは逆に作用する、つまり甘味を増強させる
メカニズムも考える必要がありました。そこで、脳
においてレプチンと反対の作用をもつ内因性カンナ
ビノイド*
注チ
に注目し、正常マウスを用いて、これら
の腹腔内投与による味応答の変化について調べまし
た。味神経の甘味物質の応答は、投与前を100%と
すると、投与10~30分後に約140 %に達し、増
強効果があることがわかりました。この効果は、そ
の後もとに戻り始め、120分でなくなりました。他
の味物質に対する応答には明らかな変化がなかった
ことから、甘味応答だけの増強作用であることがわ
かりました。
次に飲水量を調べた結果、カンナビノイド投与後
に甘味物質だけ飲水量が増加することがわかりまし
た。しかし、これらの変化はカンナビノイド受容体
であるCB1を欠損させたマウスではみられませんで
した。これらのことから、内因性カンナビノイドは
図6 食事パターンによる血中レプチンおよび血糖値の日内変動への影響(A)、消化管の甘味受容とレプチンに
よる甘味抑制メカニズム(B)
(A)血糖値はレプチン濃度が低いほど上がりやすい。(B)消化管内容物の甘味物質が内分泌細胞の甘味受容体T1R2/
T1R3に結合すると、味細胞と同様の情報伝達経路で細胞が興奮する。これにより、インクレチン(GLP-1とGIP)が
分泌され、隣の吸収上皮細胞にはたらくと、SGLT1(Sodium-Glucose cotransporter1でナトリウム/グルコース共
輸送体の略)の発現が増え、グルコースの吸収が増え、血糖値を上昇させる。レプチン濃度が低くなると、甘味抑制がな
くなりインクレチンの放出が増え、糖吸収そして血糖値が増える。