8020 No.13 2014-1
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ESSAY ちょっとひと息
Essay ちょっとひと息
美人を形容する四文字熟語は、そ
の立ち居振る舞いや、姿形などいろ
いろありますが、美人顔について主
なものを挙げますと、 「明
めいぼうこうし
眸皓歯」、
「容
ようしたんれい
姿端麗」、「美
びもくはんたり
目肦兮」、「朱
しゅしこうし
唇皓歯」、
「蛾
がびこうし
眉皓歯」、「曼
まんりこうし
理皓歯」、「曲
きょくびほうきょう
眉豊頬」、
「仙
せんしぎょくしつ
姿玉質」などがあります(表)。
いずれも、中国の漢詩の中で取り
上げられている言葉で、こうやって
みてみると美人顔を表すものとして、
「白く整った歯並び」が美しさの代名
詞になっているようです。今も昔も、
美人の条件は皓歯(整った白い歯)
が大切ということでしょうか。
■楊貴妃の代名詞として
「明
めいぼうこうし
眸皓歯」の由来は、「一
いっこけいせい
顧傾城」
(君主がその女性に夢中になり政治を
行わず、 国を傾けてしまうほど絶世
の美人。いわゆる「傾
けいこくびじん
国美人」)と言
われた楊貴妃の、美しさを伝える言
葉として有名です。
楊貴妃は、大帝国であった中国の
唐王朝において、特に栄華を極めた
盛唐といわれる玄宗皇帝の時代(西
暦712〜760年頃)、玄宗皇帝が国
政をおろそかにしクーデターが起き
る原因となった美女として伝わって
います。
「明眸皓歯」という言葉は、李白と
並び中国史上2大詩人と言われた
杜甫が「哀江頭」のなかで、漢詩の
一節として楊貴妃のことを表現する
言葉として使われました。この題は、
「曲江の畔で哀しむ」という意味で、
安禄山によって引き起こされた、
安史の乱で殺された楊貴妃を悼み、
我が身を痛む内容になっています。
詩の中で「明眸皓齒今何在」(美女
は今どこにいったのだろうか)と書
かれ、「明眸皓歯=美人=楊貴妃」と
楊貴妃の代名詞として使われ広まり
ました。
そして、太宰治の短編「竹青」の
なかでも使われています。物語は、
中国湖南の書生が、仕官の道をめざ
すも願い叶わず、悲嘆にくれている
とき、 現れたカラスの化身である女
性の美しさを、「明眸皓歯」と表現し
て引用されました。
また、美しさ故に、楊貴妃の死は
いくつかの伝説を生んでいます。実
際は殺されずに逃げ延び、日本に流
れ着いたとの伝説もあり、山口県油
谷町二尊院に楊貴妃の墓が祀られて
います。この墓の真偽は定かではあ
りませんが、楊貴妃似の座像は、京
都の泉涌寺にあるという伝承もあり
ます。玄宗皇帝が、亡き楊貴妃を偲
び作らせた似像の観音を、湛
たんかいりつし
海律師
という僧が宋で修行した後、帰国す
る際に持ち帰ったと伝えられていま
す。残念ながら口を閉じていて、皓
歯を伺うことはできませんが、その
穏やかな表情から美しさを忍ばせる
ものがあります。
■白く整った歯は
美しさの基本
皓歯を持つ楊貴妃でしたが、後年
は歯病に悩まされていたという言い
伝えがあります。「楊妃病歯図」と
いう図絵があり、絵の情景について
「春冷えのあるとき、その冷えが歯
にしみて眉をひそめていた楊貴妃は、
茘
れいし
枝(ライチ)を欲しいと玄宗皇帝
に願い出ることもなかった」と書か
れています。歯の痛みを感じていた
楊貴妃は、大好物の茘枝さえも食べ
る気にもならなかったということで
しょう。
唐の時代では、歯科検診の習慣な
どなかったでしょうから、どんなに
白くきれいな歯並びでお手入れをし
ても、むし歯や歯周病になることが
あるということです。
男女を問わず、白く整った歯は美
しさの第一歩。美しさは口元から始
まります。定期的に検診を受け、美
しさを保ってみませんか。
会誌「8020」編集委員
小林慶太
「明眸皓歯」 美しさは口元から・・・
美人の容姿をあらわす4文字熟語
明
めいぼうこうし
眸皓歯
美しく澄んだ目元と白く美しい歯並びの美人のこと
容
ようしたんれい
姿端麗
顔や姿が整い、美しいさま
美
びもくはんたり
目反兮
目がつぶらで美しい人
朱
しゅしこうし
唇皓歯
赤い唇と白い歯の美人のこと
蛾
がびこうし
眉皓歯
蛾の触角のように細く弧を描いた美しい眉と白い歯の美人
曼
まんりこうし
理皓歯
きめの美しい肌と白い歯の美人
曲
きょくびほうきょう
眉豊頬
美しい眉と、ふっくらと豊かな頬
仙
せんしぎょくしつ
姿玉質
仙女の姿のように高尚で優雅、並外れた美人