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平成13年度8020公募研究報告抄録

報告書名: 口腔衛生の全身性疾患及び生命予後に及ぼす影響
研究者名: 佐々木英忠、荒井啓行、矢内勝
所属: 東北大学医学部老年・呼吸器内科

緒言

厚生省の平成10年の人口動態統計によれば、日本人の死因としての肺炎は悪性新生物、心疾患、脳血管疾患についで第4位であり、その中では65歳以上の高齢者が94.4%を占める。高齢者肺炎は口腔内雑菌の不顕性誤嚥による細菌性肺炎と同意であると言ってもよく、その予防として高齢者の口腔衛生の向上は非常に重要なファクターである。高齢者肺炎の危険因子としては他に認知機能の低下、ADL低下などがあげられ、また不顕性誤嚥を誘因する高齢者の嚥下障害は、脳血管障害などにより嚥下反射や咳反射を司る神経伝達物質サブスタンスPの合成が低下することにより起こる。この研究ではブラッシングによる口腔ケアがこれらの高齢者肺炎の危険因子に影響を与え、高齢者肺炎罹患予防に働きかけることを明らかにする。

方法

仙台市近郊にある慢性療養型病棟に入院中の脳血管疾患に起因する嚥下障害を持つ患者40人を対象に、介護者により口腔ケアを受けるグループ(以下、介入群)と自力で口腔ケアを行うグループ(以下、非介入群)に振り分け、実際のブラッシングによる口腔刺激が高齢者肺炎の危険因子に与える影響をみた。介入群の20人の患者(男11人、女9人、平均年齢75歳)には、"水歯磨き"と称する蒸留水をつけた軟毛歯ブラシ(tuft 24, super soft type, (株)オーラルケア)で、歯、歯肉、歯と歯肉の間を1箇所につき10回づつブラッシングをした。舌に対するブラッシングも行い、総入れ歯で歯がない対象者には、入れ歯は"水歯磨き"で洗浄し、歯茎、歯肉、舌を同様にブラッシングした。これらの口腔ケアは1日3回、毎食後1ヶ月間行われた。一方非介入群では特に歯科衛生士などの介入はせず、対象者が自力で、自力で行なえない対象者は放置された。嚥下反射の数値化は、鼻腔カテーテルを用いて1ml 蒸留水を被験者の咽頭に注入し、その刺激により嚥下が開始されるまでの時間を"潜時"と称し、個々の嚥下反射潜時(latency time of swallowing reflex, LTSR) を測定することで行った。LTSRの測定は実験開始後第3日、10日、30日目の朝食前にそれぞれ測定し、ADLは歩行、階段昇降、食事、着衣、排泄、入浴、整容など7項目を評価し、認知機能は簡易心理機能検査(MMSE)によって評価した。また、唾液中のサブスタンスP濃度測定はLTSR測定の前に行った。唾液中サブスタンスP濃度、ADL、MMSEは実験開始時と30日目に集計した。

結果

実験開始時には両群のLTSR、唾液中サブスタンスP濃度、ADL、MMSEに特筆すべき差異はみられない。だが、口腔ケア開始後第3日、10日、30日目でのLTSRは、介入群において6.4(SE 1.6) 秒、4.4(SE 0.8)秒、4.2(SE 0.7) 秒と劇的に有意に改善した。30日の時点では介入群においてサブスタンスP濃度の有意な上昇もともなっており、ADLにおいても軽度の改善が伺えた。MMSEについては有意な変化は両群とも見受けられなかった。(表参照)

考察

今回の研究結果はブラッシングによる口腔ケアが、口腔内雑菌の排除に止まらず、口腔を刺激することにより、高齢者の嚥下反射や、日常生活動作を増進させるであろうことを示唆するものである。介入群の唾液中サブスタンスP濃度の有意な上昇は、毎日のブラッシングを用いた口腔ケアが口腔内の知覚神経終末を刺激し、末梢性あるいは中枢性に、サブスタンスPをはじめとする神経伝達物質の放出を促進し、嚥下反射を促進せしめ、肺炎の危険因子に影響を与えることを示唆している。

終言

口腔ブラッシングケアが口腔内雑菌の除去だけではなく、ブラッシング刺激によるとみられる嚥下反射やADLおよび意識レベルの改善をもたらし、高齢者の健康および生命予後に一層重要な役割を果たすことが考えられた。

表:口腔ブラッシングケアによる効果

口腔ケア介入群と非介入群のLTSR(latency time of swallowing reflex)の実験開始時、開始後第3日目、10日目、30日目の平均値(SE)の比較。両群のサブスタンスP(SP),ADL,MMSEはカイ二乗検定とフィッシャーマン検定による。*P<.001. +P<.05.



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