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平成13年度8020公募研究報告抄録

報告書名: 高齢者の海馬活動に及ぼす咬合咀嚼機能の影響:磁気共鳴機能画像(fMRI)解析
研究者名: 小野塚 実1)、藤田雅文1)、渡邊和子2)、久保金弥3)、横山佳朗4)
所属: 岐阜大学医学部1) 神経高次機能学講座、2) 生理機能学講座、朝日大学歯学部3) 解剖学講座、4) 補綴学講座

高齢化に伴い健康寿命の延長が日本はもとより世界的な大きな社会問題として取り上げられている。近年口腔機能と痴呆の関連性が歯科臨床の現場で指摘されるようになり、とくに咬合咀嚼と高齢者の知的機能が注目されている。つい最近我々は早期性老化マウスにおいて、老齢期に咬合咀嚼不全に陥ると空間認知機能の減衰とこの機能を司っている海馬の神経細胞死が起こり、この障害は咬合を修復することによって改善されることを見いだした。今後はヒトでの解明が必須であり、しかも、生きている脳の高次精神機能と脳活動を直接結びつけてシステム的に研究する必要がある。これを可能にするのは、脳の構造や活動状態を外部から非侵襲的に観察する磁気共鳴機能画像(fMRI)法である。本研究では、我々がこれまで進めてきた研究を基に、fMRI法を駆使し高齢者ボランティアの空間認知とその機能をになう海馬の活動レベルを咬合咀嚼刺激により上昇させることを神経科学的に解析した。その結果、以下の成績を得た。

(1) fMRI法を用いて咬合刺激による脳活動の変化を測定したところ、運動野、体性感覚野、補足運動野、視床、島、小脳の神経活動の増強が有意に認められた。また、咬合刺激にコントラストをつけると、これらの領域の活動がより顕著になり、新たに連合野(頭頂部、前頭部、側頭部)が賦活化されることが明らかになった。

(2) 同様の方法で、各種年齢層の海馬活性に対する咬合刺激の影響を検索した。その結果、海馬の賦活化は咬合刺激によって増強し、その程度は加齢に依存することが判明した。

(3) 咬合刺激によって近時記憶の向上が高齢者で見られた。

アルツハイマー病などの痴呆疾患では極度な海馬萎縮がみられるが、健常者でも程度の差こそあれ加齢に伴い萎縮する。萎縮はまぎれもなく神経細胞死の結果産物である。記憶の座である海馬は大脳皮質と比べて圧倒的に小さいので、神経細胞死が進むと海馬が担っている機能に重篤な障害が起こる。その典型的な例が痴呆である。神経細胞死は持続的な強い刺激だけでなく、情報を長期間受けない環境に曝されても起こる。また最近の研究でストレスが海馬の神経細胞死を促進することが徐々に明らかにされている。我々のこれまでの研究によって、咬合刺激による情報は大脳皮質のネットワークに適度な刺激を与えて海馬への情報入力に促通効果をもたらしていることが明らかになり、これは咀嚼運動という日常行為が高齢者痴呆予防に対し重要な役割を果たしていることの神経科学的な根拠のひとつといえる。以上のことから咬合咀嚼は食物摂取のためだけでなく、高齢者の知的機能を保持し健康に老いるためにきわめて重要である。


 

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