多くの高齢者がリュウマチ、高血圧、聴覚障害、心疾患、整形外科的な問題を抱えています。このような状態が口腔の症状として現れることがあります。またこれらの疾患の治療のための服薬が口腔内の状態を悪化させていることがあります。特に降圧剤や鬱に対する薬が口腔乾燥症を引き起こし、齲蝕にかかりやすくなることが指摘されています。これらの慢性的な症状によって「高齢者が歯科治療に耐えられない状態になり、また日常生活活動を制限しています。慢性的な疾患をかかえる患者の中には移動が困難になり、手が不自由になり歯磨きができず、口腔衛生状態が悪化する場合があります。 歯科医療関係者は抜歯、う蝕、歯周病などによって治療が必要になった口腔よりむしろ健全で高い機能を有する歯牙を保存してゆくことにその存在意義があります。しかし、口腔保健や歯科サービスの利用状況は国や地域によって大きく異なります。世界的に見るとこれは大きく3つのパターンに分類できます。第一のパターンは高齢者数が少なく、そのほとんどが自分の歯牙を有しているパターンです。第二のパターンは、成人期にう蝕が増加して歯を失ってしまうパターンです。このパターンの国や地域の多くは、収入の多くが歯の治療よりもむしろ砂糖の消費に使われてしまっています。第3のパターン寿命の延伸とともには高齢者人口が増加して口腔保健や歯科サービスに対して多様な態度をとるものです。 高齢者が歯科よりも全身の健康を優先するのは珍しいことではありません。ヘルスプロモーションの一つの焦点は、一般的なヘルスケアーと口腔ケアの統合の重要性を高齢者や医療関係者に認識させることです。 表1 に医療関係者の数の推定値を示してあります。先進国でも発展途上国でも看護士や内科医の数と比較して歯科医師の数がかなり少ないことがわかります。多くの国で歯科医師は内科医の約1/5程度しかいないことがわかります。このようなことから医療関係者をオーラルヘルスプロモーションに取り入れることが、口腔保健を広めるのに効率がよいことがわかります。特に高齢者は内科医や看護士に健康に関する相談をするとが多いため、高齢者に対して口腔保健の普及には効率的です。 学校保健計画やプライマリーケアーで、全身の健康とオーラルヘルスを取り入れることあ一般的になってきています。特に歯周病や口腔ガンの危険因子である、タバコや飲酒に関する教育を取り入れています。歯周病や口腔ガンは若年者より高齢者に多いため、プライマリーケアー関係者が口腔保健に関する健康教育を高齢者に行うことは効率のよいアプローチです。 多くの高齢者が歯科医院を訪れるのはまれです。マレーシアでは86%の子供が年に一度定期検診に歯科医院を訪れます。しかし、高齢者を含めた成人で自分の歯牙を有する人はわずか6%しか歯科医院を訪れていません。このような状況では歯科医院からオーラルヘルスプロモーションを普及してゆくことは困難です。また、人口に対する歯科医師数が国単位では充分なところでも、高齢者や田舎に住んでいる人、また貧困な人が歯科医院を訪れるのは困難であるという状況があります。 結局、一般的なヘルスプロモーションと一緒になったオーラルヘルスプロモーションはほとんどありません。その結果、地域を主体としたプログラムのエビデンスはほとんどありません。タイでは政府の健康局が、60歳以上の高齢者の口腔保健を向上させるために、ヘルスケアーシステムによって、一般的なヘルスプロモーションとオーラルヘルスプロモーションを統合しています。人頭補助金が設立され、公的病院とボランティアの私立病院が部分床義歯、全部床義歯を含めた包括的な全身と口腔の健康を統合したヘルスサービスを提供しています。このプログラムの予防に関するサービスの提供によって、高額な医療やリハビリテーションのサービスの提供を最小限にできることを政府は期待しています。
出生率の低下だけではなく、公衆衛生サービスの向上や医療技術の進歩による、平均寿命の延伸から人口構造が変化しています。先進国と一部の発展途上国で平均寿命が延伸していますが、高齢者にとって平均寿命の延伸は必ずしも生活の質の向上に結びついていません。健康な高齢生活を送るためには、高齢になる前から、準備と予防が必要です。 高齢者が健康な口腔を保つためには、費用がかかり、重荷になるような、歯科治療に依存しています。 健康とは、単に病気がなく病弱でないというだけではなく、身体的、精神的、社会的に良好な状態です。この概念に基づき、健康とは単に身体的な健康のみでなく生活の質を向上させることと言えます。それに関連する因子は、社会的に安全で、安全な家に住み、資源が充分にあり、人間関係に満足し、趣味があり、様々な活動をすること、そして前に進む気持ちをもつことです。このセクションでは以上の点をふまえてオーラルヘルスに関する見解を紹介します。 口腔疾患は生命を脅かすことはありませんが、食べること、笑顔、会話、表情に影響し、精神的な健康に悪影響を及ぼします。歯がないこと、歯周病、う蝕は全て高齢者にとって共通の疾患ですが、患者と医療関係者の態度、ケアの利用のしやすさ、歯科治療に対する考え方を反映しています。全ての口腔疾患はオーラルヘルスプロモーションによって予防可能で、治療よりもコストがかからず長期間にわたり効果的です。 高 齢者の口腔保健を向上させることは、オーラルヘルスケアーの提供者に新たな挑戦と責任を提供します。予防処置と定期管理の重要性を高齢者とケアの提供者に認知させるにgは多くの障害が存在することが多くの調査から明らかになっています。 この障害は大きく4つに分けることができます。疾患と健康に関連する因子、社会的な因子、サービスに関連した因子、態度と認知の因子です。オーラルヘルスプロモーションは健康教育、治療を含めた確固としたモデルに従い行うべきです。オーラルヘルスプロモーションで最も大切なことは、経済的、社会的な計画に従い口腔の健康を維持することに大切さを認識させることです。
地域でのヘルスプロモーションは、予防に重点を置き、高価な病院での治療には重点を置きません。地域での口腔保健は、健康教育、スクリーニング、診断、処置を包括することです。地域でのヘルスプロモーションを成功させるためには、地域が進化してゆく必要があり、多くのヘルスプロモーションの提言者は地域の強化が成功には必須であるとしています。 ヘルスプロモーション計画は、生活様式を超えて個人をコントロールするという明白なゴールと間接的には人々を動かし、組織し、教育するという継続的な活動に支えられています。そして、オーラルヘルスプロモーションは、個人、家族、職場、社会の各段階で起こってゆきます。 従来のトップダウン方式では、地域を規則、登録、費用などでコントロールしようとしますが、ボトムアップの方式では、需要力や力量を増加させ、地域の資源を作り上げ、住民のなかからリーダーを育成してゆくことです。 図3 にその一例を示しました。 この方式では個人の行動を健康に結びつくような変化のための地域と社会の活動に焦点をあてています。地域でのヘルスプロモーションは、政策、地域活動、個人の技術向上、サービスと支援環境を再設定することに基礎をおいています。最も成功を修めているヘルスプロモーションは子供を対象としたもので学校を拠点にヘルスプロモーションが展開できます。このモデルを高齢者に当てはめると、その拠点は家庭、デイセンター、病院、診療所、ナースホームなどです。どこを拠点にしても、口腔衛生指導、栄養指導、適切なフッ素の使用、禁煙などのヘルスプロモーション活動を行います。さらに、病院などを拠点とした活動には、歯科、医科そして社会のサービス提供が含まれます。しかし、このモデルがアメリカで実施されたときにはサービスに歯科が含まれませんでした。しかし、このように環境が整備されている場合、最小限のコストでヘルスプロモーションがスタートできます。 地域でのヘルスプロモーションは常に政策を考慮にいれておく必要があります。またヘルスケアーシステムの変化も考慮する必要があります。特に個人が適切なケアを便利な場所で安価に受けられるような歯科医療サービスの供給です。 個人を強化すること、そこに住む人々に会うこと、他のヘルスの専門家たちと協力することなどの追求してこなかったため、歴史的には歯科のシステムは参加型ではありませんでした。歯科の専門家は将来の高齢化社会に向かって前述のような環境に適応してゆく必要があります。アジアの国の多くでは、高齢者は家族の心であると考えられています。治療に対する決断、特に高額な補綴治療などには、家族単位での意志決定が必要となります。そしてその家族が適切なヘルスプロモーションを診療所、病院、ナースホームで決断できるようにしてゆく必要があります。 地域での健康計画では、従来のオーラルヘルスケアーを受けられなかった人や集団にサービスを提供してゆく必要があります。地域で教育や研究など様々な努力が払われてきましたが、まだそれらを推奨するには充分なエビデンスがありません。最近、アメリカで地域住民を対象としたう蝕予防、口腔、咽頭ガンの予防、スポーツによる外傷の予防を目的とした介入で方法対する研究論文のシステマッテックレビューが行われました。その結果として、う蝕予防には水道水のフッ素化、学校を基盤としたシーラントが効果があることが明らかになりました。しかし、その一方で他の介入方法は未だにそのエビデンスが充分でないことも明らかになりました。また、地域を基盤としたシーラントや口腔ガンの早期発見は効果がないことも明らかになりました。このようなエビデンスが明らかになったにも関わらず、地域では未だにその地域特有の方法でヘルスプロモーションを展開しているようです。またその一方でこれらのエビデンスは必ずしも高齢者には当てはまりません。 地域に対して適切な機会に効率のよいヘルスプロモーションを展開することは複雑なプロセスです。これらの活動は主に小児や成人を対象としてきたため、高齢者の効果があるかはほとんどわかっていません。
投資家の市場経済への影響力は先進国と発展途上国では大きな差があります。成熟した市場では、投資家は製品やサービス、価格決定、流通システムの確立、販売促進に対して大きな影響力があります。そして投資家は公的機関や大学、研究機関、医療提供者を含めた市場を操作します。一方、政府は地域の健康増進に必要なサービスや製品に対して税金を考慮することで市場に影響を与えます。私的機関や医療提供者は、政府に認められたサービスや製品によってオーラルヘルスを向上させるように働きかけてゆきます。 一方、発展途上国では、まだその基盤整備ができいていません。政府から支払われる給料が安いため歯科医師はヘルスサービスの仕事よりむしろ個人的に治療を行うようになる傾向があります。そして、高額な医療費を払える人のみを対象とした医療に専念してしまいます。 市場経済は科学に対しても影響を与えます。アメリカでは、歯磨剤生産者によってフッ素の適切な使用と歯磨きの大切さが市民に伝えられています。適切な市場戦略によって高齢者が自分の歯を保つことの大切さを認識するようになるでしょう。 タイでは投資家達の協力によって、禁煙運動が展開されています。喫煙と肺ガンの関連をテレビ広告で伝達しようとしましたが、コストのわりには効果がありませんでした。 しかし、ここ10年で成功に導くことができました。内科医に対して、タバコが生命を脅かすものであることを徹底して教育しました。マスメデイアも子供に焦点をあてた広告を展開しました。子供に父親が死なないようにまた、家族の家計ささえられるように健康を保つために禁煙することを子供が父親に勧めるようになったのです。 この活動によって2つの大きな法律が制定されました。その法律とは、Tabacco Products Controll ActとNon-Smoker Health Controll Actでこれらの法律によって、レストラン、劇場などで禁煙席の設置や、タバコの関する宣伝の規制が行われました。2001年にはタイではタバコに対して1%の増税がなされ、その収入はヘルスプロモーション活動に割り当てられました。このように税金による強力な経済支援が、政府および、非政府機関が禁煙運動に対して努力することが期待されました。オーラルヘルスプロモーションは、ミルクから砂糖を除く規制によって始められました。このように、オーラルヘルスプロモーションは、ヘルスプロモーションと平行して発展してゆきます。
健康な口腔と高い生活の質のためにはオーラルヘルスプロモーションは重要な位置を占めます。ヘルスプロモーションは健康教育や疾患予防など様々な要素があります。オタワ憲章で推奨されたように、地域レベルと個人レベルのヘルスプロモーションを統合してゆく必要があります。オーラルヘルスプロモーションに関与する人々は社会の全ての人に適切な疾患予防サービスの提供によって予防のたに努力するべきです。