インタビュー13

インタビュー時年齢:76歳(2017年2月28日)

プロフィール

戦前から飴屋を営んでいた父親のおかげで、子どもの頃から甘いものをふんだんに食べて育ち、いつもむし歯だらけだった。成人してからは歯槽膿漏(歯周病)にも泣かされ、40代半ばで歯が16本しか残っておらず、結局全部抜いて総入れ歯にしてしまった。

入れ歯のおかげで煎餅や落花生など固いものも食べられるようになり、歯医者の予約をする煩わしさもなくなった。その一方で、入れ歯は4,5年おきに作り替えなければならず、保険がきかないのでお金がかかる。歯茎との間にイチゴの種が挟まるとすごく痛かったりして、自前の歯の方がいいと思うこともある。家にいるときは入れ歯は外しているので、時折忘れてそのまま近所に出かけてしまう。入れ歯なしでも会話には不自由はなく、見た目もそんなに変わらないと思っている。ただ、妻の介護で口腔ケアの大切さを知り、歯茎のブラッシング(マッサージ)は毎日するようになった。

妻は急性腎不全で入院しているうちに、口から食べられなくなり、寝返りも打てないほど弱ってしまった。家族が見舞いに来ない患者が看護師にいじめられるのを見て、自分はなるべく頻繁に病院に通うようにした。液状になっている食事を30分くらいかけて、一口ずつ「ゴックン」といいながら、つぶつぶの付いたスプーンで食べさせていた。退院して家に戻るにあたっては、一日3回、正しく経鼻栄養の管が胃の中に入っていることを、聴診器で聞いて確認してから栄養剤を入れる方法などを、病院で習ってきた。

回診でやって来た医長は内視鏡で喉の中を映した写真を見ながら、ふんぞり返って「これは胃ろうだな」などと言っていたが、今日か明日かという人を助けるのが医者であって、命さえ助かれば、あとはもう胃ろうにして退院という考え方なのだと思う。退職後に10年ほど介護車両の運転手のアルバイトをしていたことがあるが、そのときに人工呼吸器を必要とする患者さんを機械ともども運んだことがあり、機械で生かされることの意味や生活の質ということを考えるようになった。胃ろうにして、味なんかわからなくても生きていればいいのか、夫が作った大根の煮物がよく煮えているかどうかわからなくてもいいのか。家族にとって身内である患者はただ生きていればいいわけではなく、一緒に生活を営めることが大事だ。

胃ろうを拒否したので赤ん坊の離乳食みたいに料理にも手間がかかるが、おかげで回復の具合を日々実感できる。こういう介護は人手と時間と金がかかるから、年金暮らしでなければできなかっただろう。豪華客船で旅行できるくらいまで元気になってくれたらいいとも思うが、本当は今のままでいいからいてくれさえすればいい。以前のように、お互い憎まれ口を叩いたりもできるようになったので、この状態が少しでも長く続いてほしいと思っている。