インタビュー14

インタビュー時年齢:72歳(2017年2月28日)

プロフィール

3年前、69歳の時に急性腎不全で半年間入院。腎不全は血小板輸血やステロイド治療のおかげで、人工透析の必要がなくなるまで改善したが、点滴と経鼻栄養(鼻から管を通して栄養を補給)が長く続いたため、口からものを食べることができなくなってしまった。筋肉に力が入らず、しゃべるのはもちろん息をすることさえ苦しかった。嚥下の訓練は受けたものの、水を飲んでも何を食べても咳が出た。手伝ってもらって一口ずつ「ゴックン」とすれば食べられるのに、病院では時間が来ると食事を片付けてしまう。誤嚥性肺炎を起こしたため、在宅復帰に際して、胃ろうの造設を勧められたが、もともと食べることが好きだったので、口から食べられないのは嫌だった。

退院後もしばらく経鼻栄養が続き、入院前は60キロ以上あった体重が30キロ台になってしまった。鼻に管が通っているとうっとおしいので、眠っているうちに無意識に抜いてしまうこともしばしばあった。ケアマネージャーに相談したところ、「冒険しましょう」と口腔リハビリに熱心な歯科医を紹介してくれた。歯科医は「頑張れば口から食べられるようになります」といい、まずは口の中じゅうにへばりついていた真っ白なおからのようなものを取り除いてきれいにした上で、ヘルパーに毎日顔面マッサージをするように指示をしてくれた。1日10分程度のマッサージだったが、次第に声が出るようになり、少しずつ飲み込みもできるようになった。

夫は赤ん坊にするように「ほらゴックンだ」と言いながら一日中何かを食べさせてくれて、少しずつ経鼻栄養を減らしていった。最初に口から食べて美味しいと思ったのはコーンスープ。今では蕎麦もウナギもコロッケも食べられるが、薄くとろみをつけた白湯はまだ食事に欠かせない。その後も、シェーグレン症候群などで再入院することもあったが、ようやく体重も50キロまで回復して排泄も自力でできるまでになった。退院直後はできなかった歯磨きも、今では電動歯ブラシを使い自力で毎食後している。

一時は「死にたい」を連発していたが、夫が「今まで何のために頑張ってきたのか」と、生きたい気持ちを思い出させてくれた。入院中は胃ろうの人が「口から食べたい」と言うのを何度も聞いた。病気を治して延命させれば済むと考えるのではなく、内科や歯科、口腔外科などで協力体制を作り、個々の患者が望むような生活をどう実現するかを考えてほしい。食べ物を味わう喜びは生きる喜びに直結している。入院中からつききりで介護をしてくれた夫には本当に感謝している。「これからもよろしくお願いします。」