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WHOデータバンクに掲載されている世界各国の口腔保健状況

資料
表1.乳歯のう蝕有病状況
表2.永久歯のう蝕有病状況
表3.12歳児のDMFT
表4.歯周疾患(CPITN)
表5.187の国・地域における12歳児のDMFTと高齢者の無歯顎者率
表6.表5補足:無歯顎者の国際比較(65歳)
表7. 表5出典:36の国・地域における高齢者の無歯顎者率とその出典(情報ソース)
図1.WHOの地域別う蝕有病状況(6歳児
図2.WHOの地域別う蝕有病状況(12歳児)
図3.国別の12歳児のう蝕有病状況(有病者率、DMFT、DMFの構成割合)
図4.WHOの地域別う蝕有病状況(35〜44歳)

●WHO Oral Health Country/Area Profile ProgrammeのOral Health Profiles for Countries ( http://www.whocollab.od.mah.se/countriesalphab.html )から、世界各国の口腔保健状況に関するデータを収集した。アルファベット順に並べられた世界203か国・地域別に口腔保健に関するデータがまとめられているが、記載内容は国・地域により異なっている。そこで、1か国ずつ記載内容の詳細を確認し、乳歯う蝕、永久歯う蝕、歯周疾患に関するデータがある場合にはそれを抜き出して表1〜3にまとめた。なお、調査を行った年、対象年齢、データの出典(情報ソース)などの情報も合わせて収集して記録した。
  表1に世界各国の乳歯う蝕の有病状況について示す。乳歯う蝕に関する記載があったのは、203か国中82か国であった。しかし、その82か国の記載内容はばらばらであり、対象年齢は0〜10歳と幅広い範囲にわたっていた。その中で、一番記載の多かった年齢は5〜6歳児に関するものであった。
そこで、6歳児の記載があった60か国について、WHOの6つの地域別(ヨーロッパ、アフリカ、東地中海、東南アジア、西太平洋、アメリカ)に分けて、う蝕有病率、dmftについて比較してみた(図1)。その結果、世界的な傾向として、乳歯う蝕は東南アジア、東地中海、西太平洋地域において多く、アフリカやアメリカ地域では少ないことが判明した。また、dt、mt、ftの構成割合をみると、どの地域においても未処置歯(dt)の割合が最も高く、アフリカ、東南アジア、東地中海地域では約90%を占めていた。アメリカやヨーロッパでは他地域と比較して処置歯(ft)の割合が高かった。
表2に、世界各国の永久歯う蝕の有病状況について示す。永久歯う蝕の記載が最も多かった年齢は12歳児であった。表3に、表2をもとに作成した世界各国の12歳児のDMFTを示す。WHOは、2001年9月の時点で12歳児のDMFTは世界平均で1.74歯(推定値)となり、12歳児のDMFT3歯以下を達成した国は128か国であったと報告している。ただし、この表3に示されている12歳児のDMFT値は、対象年齢が7〜12歳、12〜15歳、12〜13歳、11〜14歳の国も含まれており、また、調査年も1973年から2002年までと30年以上の期間に及んでいる。
図2に、WHOの6つの地域別に分けて、12歳児のう蝕有病率、DMFTを比較してみた。う蝕が最も少なかったのはアフリカ地域であった。一方、ヨーロッパやアメリカ地域では有病率もDMFTも高い傾向を示した。アフリカ地域ではその構成成分のほとんどが未処置歯(DT)であり、処置歯(FT)はごくわずかであったが、ヨーロッパ地域では、処置歯が約半数を占め、地域によりう蝕の処置状況に差が認められた。
  また、国別の12歳児のDMFT、有病率、DMFの構成割合の記載があったものを、図3に地域ごとにまとめてみた。今回調査した国の中で、最もDMFTが低かったのは、ヨーロッパ地域ではスイス(0.84歯、1996)、アフリカ地域ではガーナ(0.10歯、1991)、東地中海地域ではジブティ(0.86歯、1990)、東南アジア地域ではインド(0.86歯、1993)、西太平洋地域ではオーストラリア(0.80歯、1998)、アメリカ地域ではベリーズ(0.6歯、1999)であった。一方、最もDMFTが高かったのは、ヨーロッパ地域ではセルビア(7.80歯、1994)、アフリカ地域ではモーリシャス(4.90歯、1993)、東地中海地域ではレバノン(5.70歯、1994)、東南アジア地域では北朝鮮(3.00歯、1991)、西太平洋地域ではブルネイ(4.90歯、1994)、アメリカ地域ではガテマラ(8.10歯、1987)であった。
図4に、WHOの6つの地域別に分けて、35〜44歳のう蝕有病率、DMFTを比較してみた。有病率に関しては、75〜90%と地域差が比較的少なかったが、DMFTには大きな地域差が認められた。DMFTが少なかったのは東南アジア、アフリカ地域であり、アメリカやヨーロッパ地域ではその2〜3倍高いDMFTを示した。DMFTの構成割合としては、喪失歯(MT)の占める割合が高くなり、どの地域においても1/3以上を占めていた。ヨーロッパやアメリカ地域では、処置歯(FT)の占める割合が未処置歯(DT)より多かったが、アフリカや東南アジア地域では反対に、未処置歯(DT)の占める割合が処置歯(FT)より多かった。
  表4に、世界各国の歯周疾患の有病状況についてCPI indexを用いて調査した結果を示す。100か国のデータが記載されており、最も多い調査対象者は35〜44歳、調査年は1981年から1993年の約10年間に行われていた。
1981年に初めて国際的な口腔保健目標が設定され、その中で、「口腔保健の変化を監視するためのデ−タベ−スを確立する」という目標が挙げられた。しかし、これまで情報発信を行ってきたWHOのデータバンクの内容をみる限り、12歳児のDMFTや基準年齢としての5〜6歳、12歳、35〜44歳、65〜74歳など、いくつかの共通事項は認められるが、各国の口腔保健データには統一性が認められなかった。
多くの国で、それぞれ独自の歯科疾患実態調査や学校保健統計調査などが行われているが、それらが英語ではなく母国語で報告されていたり、調査結果が学術論文として公表されていないために、最新のデータ収集ができなかったことが推測される。また、国の口腔保健への予算、歯科医療従事者、保健医療施設などの資源の格差、また、保健担当者の口腔保健への関心度の高低も、各国における口腔保健情報の収集と発信に対して大きな影響を及ぼしたと考えられる。このような状況を鑑みると、今後、各国の口腔保健に関する最新情報を幅広く同じ基準で収集することは非常に難しいと思われる。
  今回、新しく提示された2020年までの国際口腔保健目標では、目標設定の枠組みが示されただけで、数値は各国が現状に合わせて設定できるように工夫されている。”Think globally, Act locally”の実践を目指したものであり、極めて現実的である。わが国においても、「健康日本21」の中で同じような取組みが行われている。例えば、「歯の健康」の目標として、2010年までの国の目標値が提示されているが、地域においてはその実情にあった目標を独自に設定して、活動を行うことが推奨されている。また、中間評価を行い、その結果を活用して計画の軌道修正を行い、さらに目標達成に励むことが求められている。
わが国においては、幼児から高齢者に至るまで口腔保健に関する疫学資料がこれまで十分蓄積されており、今後、国際保健のデータ収集に関してもっと積極的に関与していくことが望ましいと考えられた。



●WHOのOral Health Profiles for Countries(http//www.whocollab.od.mah.se/countriesalphab.html)には、203の国名・地域名が掲載されていたが、歯科保健に関する情報があったのは187の国・地域で、約20%であった。その187の国・地域の中で、高齢者に関する無歯顎者率を掲載していたのは36の国・地域であった。
  無歯顎者の調査を行った高齢者の対象年齢としては、65歳、65歳以上、65-74歳などが多かった。年齢は国・地域によって異なり、統一されていなかった。
  無歯顎者率が最も高かったのはボスニアヘルツェゴビナの78%(65歳)であり、次いでポルトガルが72%(65歳)であった。無歯顎者率が70%を越える国はこの2カ国のみであった。次いで無歯顎者率が高かったのは、アルバニア69%(65歳)、オランダ61.0%(65歳)、カナダ58.0%(65歳以上)であった。
  高齢者の歯科保健に関する調査を行っている国が少ないことが、あるいは調査を行っていても海外に向けた情報発信を行っていない国が多いことが明らかになった。
  また、出典として文献や報告書ではなく、各国の歯科保健部長から直接得たデ−タであるとした国が10カ国あった。これも世界各国において、高齢者に関する疫学調査の結果が文書としてきちんとまとめられていないことを示唆している。
  WHOにおいても、高齢者に関する歯科保健情報は不足しており、今後12歳児のDMFTのように、国際基準として適切な指標で高齢者の歯科保健状況を比較していくことが必要であると考えられた。
  WHOが無歯顎者率を国際比較する指標として用いたのは、おそらく1981年9月にFDIと共同で設定した歯科保健目標と関連があると思われる。
  しかし、2000年までにWHOのGlobal Data Bankに集められた各国からの口腔保健情報をみると、12歳児のDMFTのデ−タは国別に詳細に報告されているが、その他の目標に関する情報は少ない。WHOは2000年までの口腔保健目標に続き、2010年と2025年までに達成すべき目標を1988年にWHOとFDIのワ−クショップにおいて定めたが、その中には、高齢者に関する歯科保健目標はない。したがって、今後、WHOが中心となって高齢者に関する国際情報を収集する可能性は少ないと思われる。
  高齢者の歯科保健状況を国際比較できる基準を、海外の研究者と共同で定義し、長期的な追跡を可能とするためにも国際デ−タバンクを構築していくことが不可欠である。
  各国の人口構成や平均寿命は異なるため、高齢者の歯科保健への関心が低い国があることは事実である。だからこそ、世界一の長寿国であり、高齢者に関する歯科保健デ−タが集積されているわ国が中心になって、世界各国の高齢者の歯科保健の状況を把握し、国際デ−タバンクを構築していくことが求められている。この国際デ−タバンクの構築にあたっては、各国が共通して同一基準でデ−タを蓄積していく必要がある。
  日本の「8020」は、生涯健康な歯を維持していくための指標として、各国の高齢者の歯科保健を比較する上で有用であると考えられる。また、高齢者といっても、国によって対象年齢が異なることも、今後考慮しなくてはならない課題である。高齢者の年齢については、国によって平均寿命が大きく異なるため、同一の年齢で調査するのは困難である。わが国では老年医学の対象として65歳は若すぎるという意見がある。しかし平均寿命が50歳未満の国では、65歳という年齢はかなり高齢といえよう。このような国では65歳以上を対象とした調査は人口構成の面から考えても不可能に近い。調査対象年齢の設定には十分な配慮が必要である。たとえばその国の平均寿命よりも10歳若い年齢層で比較する、あるいは総人口のうち高齢者の上位10〜15%の集団の調査を行うなどが考えられる。
  今後、高齢者の対象年齢、歯科保健状況を比較する指標、継続したデ−タの収集方法などについて、わが国から海外に向けて国際基準を提言していけるよう、検討していくことが大切だと考察された。
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