これからの8020

8020は、なぜ50%を達成できたのか? これから必要なことは?

60%の人が、8020となる時代に向けて

8020運動が1989年に始まってから30年が経ちました。この運動が始まったころは、10%にも満たなかった8020達成者が、2016年の調査で50% (2人に1人)になりました。次は2022年に向けて、達成者を60%にする新たな目標が掲げられています。50%達成に至った経緯と今後の運動についてご紹介します。

8020運動で歯の健康寿命が延伸
~この運動は健康寿命の延伸に貢献した~

8020運動(80歳で20本の歯を保つことを目標とした歯の健康づくり運動)が1989年に始まってから30年が経ち、2016年の調査で、2人に1人が8020となり、当初の到達目標である50%を達成しました。

この運動が始まったころは、8020達成者は10人に1人(10%)にも満たないとされ、2人に1人(50%) 達成を実現するのは夢物語といわれていましたが、目標が達成されたことから、最近2022年に向けて8020達成者を60%とする新たな歯科保健目標が、設けられました。

子どもが少なく、高齢者が増えつづけ、平均寿命 が長くなる時代となり、社会の活力を維持するため健康寿命の延伸を図ることが政府の政策目標として位置づけられています。

最近の首相官邸で開かれる会議での厚生労働省の提出資料を見る限り、2019年夏を目途に策定される「健康寿命延伸プラン」の内容の1つとして、歯科健診や保健指導が充実と歯科疾患対策の強化が触れられています。

歯の健康寿命を延伸させる8020運動は、健康寿命の延伸に対して、少なからず貢献してきたことになるはずです。30年間でなぜ目標を達成できたのかということと、今後の運動についてご紹介します。

8020運動で変わったこと
~歯と口の健康への関心が高まり、歯科保健状況が改善へ~

個人の保健行動について、8020運動が開始された当時と現在30年が経ってから の状況を比較してみると、

  • 1日3回以上、歯をみがく者が倍以上に増加
  • デンタルフロスや歯間ブラシ等の補助的な清掃用具の使用者が増加
  • 定期歯科健診を受診する人が増加

など歯と口の個棄への意識力塙まり、その反映として、

  • フッ化物配合歯みがきのシェアが増加
  • 年間砂糖消費量の減少

が見受けられます。

いわゆるむし歯予防や歯周疾患の進行を抑えるよう努力をする人が増えその結果、歯を失う人が減ったのではないかと考えられます。

また、調査の方法が違うので、一概に比較ができるわけではありませんが、「歯が痛い、しみる」と回答した人の数も減少の傾向を示しています。

なお、7年前の2011年に「歯科口腔保健の推進に関する法律」が制定されましたが、最近では、成人の歯周疾患検診や後期高齢者の歯科健診が行われるようになり、歯の健康を保つための試みが行政などでも行われるようになってきました。

もちろん、歯科医療を支えるサイドでも、最近は、歯科疾患の予防を図るための保健指導が積極的に行われるようになりました。歯科診療所の患者さんについても、巻頭年表に示すとおり、約3割の患者さんが、歯周疾患の治療で歯科診療所に来院しており、以前よりも歯のメインテナンス治療が行われ、歯の喪失防止に対して歯科医療従事者も今まで以上に努力をするようになりました。

この結果、歯科疾患の状況をみてみると、

  • 未処置のむし歯の減少
  • 喪失歯の減少

などが認められ、図1. 2に示すとおり、8020運動の推進に貢献する結果が示されています。

今後はどのようなことが大事になるのか

1) 「かみにくい」と訴える人が高齢者に多い
~後期高齢者は、50代前半の6倍以上~

厚生労働省が実施している「国民生活基礎調査」では3年に1回、国民の健康に関連する事項についても調査が行われています。何かしらの症状による訴えを示す有訴者について、歯科関係では「歯が痛い」、「歯ぐきのはれ・出血」、「かみにくい」の3項目が調査されていますが、このうち「かみにくい」との訴えを示す者は、図3に示すとおり高齢になると増え、75歳以上の後期高齢者の場合、50代前半の人の6倍以上となっています。「かみにくい」と訴えている人を減らしていくことが、歯科口腔保健の課題のひとつとなります。

そのためには歯の喪失をさらに減らし、残っている歯の噛み合わせを良くしながら、歯のケアを進めていくことが必要となります。

2)歯周疾患は高齢とともに増加
~歯石が沈着している人が約4割~

筆者らが2015年に約5,800人を対象にWEB調査を行ったところ、4人に1人が2~6か月に1回程度、定期的に歯科医院を受診していました。

その後の診療報酬改定の影響があることから、少し増えている可能性はありますが、2016年の「歯科疾患実態調査」では、歯周ポケット4mm以上の者が、高齢になるに従い増える状況が示されています。歯科治療の受診に影響する歯石沈着状況を調べてみると、図4に示すとおり、歯石沈着のある人は約4割となっており、このうち、おおむね半数程度は歯肉出血を伴っています。重症化予防を進めていく上では、さらに定期的な歯科治療を普及していくこと等が必要になると考えられます。

3)健康寿命を延伸するための様々な試み
~最後はー人ひとりのセルフケアに~

健康寿命(2016年の調査では男性72歳、女性 75歳)を延伸させることが政策目標となり、最近、保険者努力支援制度が始まり、歯科健診を含め保健サービスを積極的に提供している保険者を評価するシステムが整備されてきています。

これに伴い、歯周疾患検診を実施する市町村が約7割に急増するなどの動きが認められるようになりました(巻頭年表)。また、事業所においても、雇用保険の制度を活用して、法律で定められていない健診(歯科健診も含まれる)を実施する場合、助成金が支給されるシステムが導入され、企業の健康経営を後押ししています。さらに2017年には、フッ化物配合濃度が1,450ppm (従来は1,000ppmまで)の歯みがき剤が発売されるようになり、むし歯の予防が進むと期待されています。

このほか、生涯歯科健診の実施や口腔機能を重視する動きも認められ、成人や高齢者等に対する歯の健康保持についての試みが数多くなされるようになってきました。今後、成人や高齢者等を含め生涯を通じての歯科保健サービスが提供されやすいようになってくると考えられます。

もちろん、様々な製品が提供されたり、歯科医師や歯科衛生士が努力するのも必要ですが、最終的には、一人ひとりのセルフケアが求められます。

おわりに

8020運動を開始した当初20歳だった人が、50歳になったときの歯の喪失は、図5に示すとおり1.5歯でした。8020運動が始まる30年前に20歳だった人が、8020運動開始時50歳のときの約6歯の喪失歯と比較しても、歯の喪失は減少しています。もちろん、これから30年後の予測を行うのは難しい面がありますが、社会保障での歯科保健医療サービスがさらに充実され、継続的に歯のケアが進められる今の政策が継続し充実していった場合、今までの歯の喪失トレンドをみていると、次の30年後は今までよりも歯の喪失が減少し、予測ができないぐらいの歯科口腔保健状況の改善が認められるのかもしれません。8020の50%達成は歯科医療の通過点であり、更なる達成率の向上を目指すとともに、今後、平均寿命が延びれば、9020や9028など、歯の健康寿命を延伸する試みも必要になるのかもしれません。