米国と中国における高齢者の歯科保健状況

イントロダクション

歯科保健医療システムや歯科保健状況を国際比較することにより、日本の歯科保健医療の長所、短所が明らかになる。これまで、 12歳児のDMFT(齲蝕歯・喪失歯・処置歯の本数の合計)に関しては、WHOのデータバンク等の情報を通して、世界各国のデータを入手することが容易にできた。しかし、高齢者の歯科保健に関する国際情報は少なく、国際比較を行うことは困難であった。高齢社会を迎えた日本では、80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという「8020運動」が全国で展開されており、歯科保健活動の大きな柱となっている。そこで、世界各国の高齢者に関する歯科保健情報を収集して、日本の状況と海外のものと国際比較を行い、その情報を世界に向けて情報発信していくことは、非常に意義のあることと考えられる。今回は、米国と中国における高齢者の歯科保健状況について簡単に報告する。

1.米国

米国において 1985-1986 年に実施された成人の歯科疾患実態調査では、勤労者と退職者に分けて歯科保健状況の分析を行っている。高齢者の歯科保健状況は退職者のデータを基本としており、表 1 に示すように、対象者数は 5,686 名であった。この対象者全体の中で 20 歯以上歯のある者の割合は、男性 26.3% 、女性 27.6% 、計 27.8% であった。しかし、年代階級別にみた 20 歯以上歯のある者の割合については記載が見られなかった。年齢階級別の無歯顎者率を表 2 に示す。 80 歳以上では、約半数が無歯顎であった。

表 1 対象者数 (名)

年齢(歳) 65歳未満 65-69 70-74 75-79 80-84 85以上
対象者数(名) 37 1,567 1,643 1,324 751 364 5,686

表2 無歯顎者の割合(%)

年齢 (歳) 65-69 70-74 75-79 80以上
31.8 37.0 52.6 51.3 41.6
32.2 44.0 40.7 48.5 40.9
対象者数(名) 32.1 41.5 45.0 49.3 41.1

2.中国

中国において 1995-1996年に実施された歯科疾患実態調査の調査対象は、都市部と農村部に居住する永住民であり、高齢者としては65~74歳の年齢群が選ばれた。対象者数は、表3に示すように、男性11,805名、女性11,647名、計23,452名である。 表4に示すように、この対象者の中で20歯以上歯のある者の割合は、57.68%であった。20歯以上歯のある者の割合は、男性のほうが女性より高く、また、都市部のほうが農村部よりも高かった。表5に、無歯顎者率を示す。中国では65-74歳の約10%が無歯顎者であるが、米国における65-69歳(32%)、70-74歳(42%)の値と比較すると、かなり低い値であった。

表3 対象者数 (名)

地域 都市部 農村部
7,871 3,934 11,805
7,749 3,898 11,647
15,620 7,832 23,452

表4 20歯以上歯のある者の割合 (%)

都市部 農村部
62.89 58.66 54.09 48.95 59.95 55.42
60.77 51.52 57.68

表5 無歯顎者の割合 (%)

都市部 農村部
8.40 10.96 10.73 13.67 9.17 11.87
9.67 12.19 10.51

考察

今回は、米国と中国との無歯顎者の割合を比較することができ、中国では米国よりも高齢者における無歯顎者率が低いことが判明した。しかし、各国の歯科疾患実態調査を翻訳して検討したところ、調査方法および対象となる高齢者の年齢がそれぞれ異なっているために、同じ指標を用いて、高齢者の歯科保健状況を国際比較していくことは非常に難しいことが判明した。特に、高齢者において無歯顎者の存在は大きく、現在歯数を計算する際に、無歯顎者を除いた有歯顎者の数を分母として算出している場合も多い。国際比較を行う際には、有歯顎者のみを対象とした現在歯数か、無歯顎者も含めた全体の現在歯数かを明らかにしておくことが大切である。

文献:米国、中国の口腔保健に関する文献

No 論文名
1 米国:Dept. of Health & Human Services, NIH: Oral Health of United States Adults National Findings -The National Survey of Oral Health in U.S. Employed Adults & Seniors 1985-1986, NIH Publication, 1987.
2 中国:全国牙病防治指導組:第二次全国口腔保健流行病学抽様調査 , 人民衛生出版社,北京, 1998.